【中井 孝芳、土屋 智・情報系科目部会代表、副代表】静岡大学基軸教育科目「情報処理」学生アンケート結果より

静岡大学基軸教育科目「情報処理」学生アンケート結果より

中井孝芳・土屋 智(情報系科目部会代表・副代表)

1.はじめに
 静岡大学の新入生向けカリキュラムの一つに「情報処理」(選択・2単位)があります。この授業は,情報系科目部会委員が作成した「Let’s Enjoy Computing –情報処理-」(学術図書出版)を教科書として,各学部の担当教員がTA支援のもとに情報基盤センターの端末パソコンを用い電子メール,インターネット,ワープロ,表計算などの基本的なソフトウエアを実践的に習得させる目的で開講されています。開講以来約10年を経過しましたが基本的なソフトウエアの習得が目的であることから、端末機器とソフトウエアの更新時に必要な修正を施す以外、大幅な教科書改訂は行ってはおりません。
 他方、高校教育における情報科目は、2003年に必修科目とされ,受講生は基本的なソフトウエアの使用を習得しています。このような昨今の現状を考慮すると,新入生向け「情報処理」の内容に関して、従来どおりの基礎レベルとするか,ややアドバンストレベルとするかを検討しておく必要があります。そこで、情報系科目部会では受講生の習熟度,満足度に関する実態調査を実施し,その現状をアンケートにより把握することにしました。以下は、それらの内容と結果について報告です。

2.アンケートの実施とその内容
 前期授業が終了する2010年7月下旬に「情報処理」授業で,インターネットを利用したWebアンケート(http://www.efeel.to/survey/)を実施しました(情報学部は後期実施の予定)。アンケート内容は,習得状況に関するもの(習得内容,授業の程度,授業の満足度),受講前後でのソフトの使用頻度の変化,パソコン導入の希望有無,インターネットの使用状況に関するもの等,以下の10項目です。
1)「情報処理」において,習得できた知識や技能の程度(社会との関係やモラル,基本操作,インター
ネット,Word,Excel,PowerPoint,コンピュータのしくみ,プログラミング等)
2)「情報処理」の内容(簡単すぎる,やや簡単,ちょうど良い,やや高度,相当高度)
3)「情報処理」の総合評価(不満,やや不満,どちらでもない,やや満足,満足)
4) 受講前に使用していたアプリケーションソフト(Word,Excel,PowerPoint ,Outlook ,Photo
Editor,ChemBioOffice, Internet Explorer,Mathematica,プログラミング言語,Type Trainer,
FileZilla,Thunderbird)
5) 受講してから使うようになったアプリケーションソフト(Word,Excel,PowerPoint ,Outlook ,
Photo Editor,ChemBioOffice,Internet Explorer,Mathematica,プログラミング言語,Type
Trainer,FileZilla,Thunderbird)
6) 所属学科では,ノートパソコン所持を前提としたカリキュラムを実施しているか?
7) パソコンを使用した授業を多く開講されることを希望するか?(どの内容を期待するか:CAI(コン
ピュータ支援による教育:英語や演習など),プログラミング ,製図,作図,シミュレーション,統
計解析,芸術,教育等)
8) インターネットのアクセス(どのような目的:大学手続(履修登録など),大学情報検索(休講情報
など),メール送受信,情報検索,チャット,オークション,ネットゲーム,通販,チケット予約,
ブログ,ツイッター閲覧・更新 ,アプリなどダウンロード等)
9) キャンパス内でのインターネットアクセス(どのような方法:演習室利用 ,教室情報コンセント,図
書館情報コンセント,学部や学科の情報コンセント,学内無線LAN,携帯などモバイル機器 ,パソコ
ン用モバイルインターネット等)
10)自宅や出先でインターネットのアクセス(該当するアクセス方法:自宅や下宿のインターネット,
ファストフード店などの無線LAN ,鉄道の無線LAN,パソコン用モバイルインターネット,携帯など
モバイル機器,ホテルなどの端末等)

3.アンケート結果
 上記アンケート項目に関して,人文学部,理学部,教育学部,工学部,農学部の対象者(1学年,前期)1710名中,1355名から回答がありました。
3.1習得できた知識や技能の程度
 アンケート項目「社会との関係やモラル」は,コンピュータ使用に伴い生ずる社会的な関係と使用法のモラルについての理解度を把握するものです。図1によれば,コンピュータ使用に伴い生ずる事柄については、所属学部によらずその約56%が理解したと回答しています。また、コンピュータの基本操作と基本的なソフトウエアであるインターネット,Word,Excel,PowerPointに関しては、60~80%がその技能を習得したと回答しています。ただし,初年度の導入科目でもあるためか,やや専門的な事柄であるコンピュータのしくみ,プログラミングに関しての回答は、30~50%であり,操作と基本ソフトウエアの習得に比べ30%ほど低くなっていることがわかります。

3.2 授業の内容と満足度
 「情報処理」の内容と満足度については,アンケートで得た0から4までの評価値を合計の後、回答者で除し学部の平均値を求め、図2に対比しました。これによれば,「情報処理」の授業内容に関しては,学部間でやや異なり2.1から2.6の評価値、平均値で2.3を示しています。つまり内容評価は,“ちょうどよい”から“やや高度”であることになります。一方,満足度については,2.3から2.7の評価値で平均値2.5ですから, “どちらでもない”から“やや満足”の範囲にあることになります。したがって,受講生は「情報処理」の内容についてやや満足していると判断されます。教える側としては、今後“やや満足”に向けた努力が必要かと思います。

3.3使うようになったアプリケーション
 情報基盤センターの端末パソコンで利用可能なソフトを選び,受講者に受講前後の使用状況を尋ねた結果を図3に対比します。これは,授業で習得した技能が,実際どのように生かされているかを判断する一つの指標に相当すると考えられます。図3によれば,受講前には基本ソフトであるWord,Excel,PowerPoint,Internet Explorerの利用が圧倒的に高く,受講生の所属学部を問わずそのほとんどは高校や自宅などで使用経験があることを示しています。
受講後には,情報処理基盤センターに導入されているメールソフトであるThunderbird,TypeTrainerの使用が20~30%増となり,理学部と工学部ではChembioOffice,Mathematicaが10~20%増となっていることがわかります。プログラミング言語に関しては、授業でほとんど扱っていないこともあってか,1%以下の状況です。

3.3 大学におけるパソコン利用の授業開講の希望とその種類
 図4には,大学におけるパソコンを使用した授業の開講希望と、どの授業にそれを期待するかの結果が示されています。パソコンを使用した授業の開講希望は,教育学部でやや低くなりますが,理学部,工学部,農学部,人文学部で約50%と高いことがわかります。パソコン利用の内訳には,人文学部の約40%,理学部の約30%の受講者がCAI(コンピュータ支援による教育)利用を希望しており,プログラミング,製図・作図,シミュレーションは工学部,理学部で20~50%の受講者が希望していることが示されています。また,統計解析は、各学部とも受講者の約20%が開講希望しているようです。

3.4 キャンパス内のインターネットアクセス
 静岡大学で新入生がインターネットにどの程度アクセスするか,またアクセスポイントはどこかを尋ねたところ,図5に示すように約55%の学生が良くアクセスすると答えています。アクセスポイントは,情報基盤センターの演習室利用が最も高く,人文学部・理学部で約40%,次いで工学部,農学部,教育学部の約25%が情報基盤センターを利用していることがわかります。次にアクセスが多いのは、携帯などモバイル機器で約30%が利用しているようです。
 人文学部,理学部,工学部では,図書館の端末利用者も比較的多く、約30%を示していますが,これには,図書館の位置と所属学部の距離が近いことが影響しているのかもしれません。なお,教室あるいは学部や学科の情報コンセントは,設備の整っている工学部でおおむね20%の利用回答がありました。

3.5 学外におけるインターネットアクセス
 自宅や下宿など学外におけるインターネットアクセスの状況を尋ねたところ,学部を問わず約75%から90%が自宅あるいは下宿でインターネットにアクセスしているとの回答がありました(図6)。
 自宅や下宿以外では,携帯などのモバイル機器によるアクセスが約50%で,それ以外の場所におけるアクセスはほとんどないことがわかります。大学内の演習室利用や情報コンセントの利用が30%程度にとどまっているのは,携帯などのモバイル機器の利用が高いことによるかもしれません。

4.おわりに
 新入生のほとんどが受講する「情報処理」の内容評価に関しては, “ちょうどよい”から“やや高度”の範囲にあるものの,満足度では “やや満足”の段階には達していないことがわかりました。このことから,授業内容は,従来どおりの教科書に沿った基礎レベルを維持しながら, “やや満足”に向けた改善努力が必要と判断されます。
 コンピュータの基本操作と基本的なソフトウエアであるインターネット,Word,Excel,PowerPointに関しては,受講生の60~80%がその技能を習得したとの回答があり,受講後には,授業で使用したThunderbird,TypeTrainerなどのソフト使用が増え,理学部と工学部ではChembioOffice,Mathematicaの使用が10~20%増加したことが示されました。
 パソコンを使用した授業の開講は、ほぼ全学部で約50%が希望しており、その内訳は,CAI(コンピュータ支援による教育)利用希望が高く,次いでプログラミング,製図・作図,シミュレーションでした。統計解析に関しては、各学部とも受講者の約20%の開講希望がありました。
 そのほか,新入生の多くは大学以外の自宅や下宿でインターネットを利用しており,また携帯などのモバイル機器を利用したアクセスも約半数に達することなどがわかりました。
 したがって,今後の授業改善にむけては,授業に用いる教科書のレベルは現状を維持しつつ,技能習得に効果的な演習課題を増やすとともに,理解しやすい授業を進めることが肝要かと考えています。