【渡邊 貴子・図書館情報課レファレンス係】学生の文献検索能力の現状報告-教職講義の受講生を対象に-

学生の文献検索能力の現状報告-教職講義の受講生を対象に-

図書館情報課レファレンス係
渡邊 貴子

はじめに
 2012年10月29日の全学教育科目「教育の原理」の講義は、教員と図書館職員が協力して授業を行った。その目的は、学習とその学習を生かす機会を同時に作ることと教員と職員の専門性をいかした協働を試みることにある。授業は、教員が学生に課したレポートをしあげるために必要とする文献(今回は論文と新聞記事)をより適切に探せることをめざした。協働した授業の具体的な内容については、今後、別の機会に報告することにして、授業の準備段階として、学生の文献検索(図書・雑誌等)能力の現状を把握するために質問紙調査を行った。その結果について紹介したい。

1.この取組みを行った背景
 附属図書館(静岡キャンパス)は毎年4月から6月にかけて、図書館利用セミナーベーシック編(以下セミナーベーシック編とする)と毎年6月から7月にかけて、図書館利用セミナーアドバンス編(以下セミナーアドバンス編とする)を行っている。セミナーベーシック編は、新入生セミナーの1コマで、原則として学部の1年生全員が受講するものであり、図書館の利用方法、図書や雑誌の検索について説明する。セミナーアドバンス編は希望者の受講だが、やはり新入生セミナーの1コマでの実施が多く、静岡キャンパスの1年生の約半数が受講している。筆者は平成24年4月よりこのセミナーアドバンス編の講師を担当した。セミナーアドバンス編は、レファレンス係が担当し、その内容はレポート作成の段取り、文献検索(図書・雑誌等)入門、CiNii Articles実習、論文入手方法、日本語データベースの説明である。したがって論文検索の講習はセミナーアドバンス編で初めて行われるため、セミナーベーシック編だけの受講者は論文検索ができないかもしれないが、セミナーアドバンス編の受講生(1年生の約半数)は論文検索ができるようになっているはずである。しかし、現状のセミナーアドバンス編の実施にあたっては多くの場合、実施時期等の関係から論文検索の方法の習得を促す動機付けが不足しており、すぐに使用する機会がないため受講してもその内容はほとんど定着しない可能性があると考えている。現実に学年があがっても論文検索の方法がわからない学生が多く、図書館のカウンターで繰り返し質問を受ける状態にある。セミナーアドバンス編の講師として学生に接した印象としても説明内容に興味や関心があまりないと感じられた。現実的に必要としていなければ、受講しても定着しないのではないだろうか。そのようなことを大学教育センターの講師である松尾由希子先生に話をしたところ、松尾先生の講義のなかでも論文検索の方法を説明されていることが分かった。そこで、お互いの専門性をいかして協力して授業を試行することになった。
2.質問調査の実施
 授業を行う前に、受講生に対して「図書・雑誌等の検索に関するアンケート」を実施した。質問紙の内容は、学年、学部などの学生の属性、セミナーベーシック編とセミナーアドバンス編の内容の理解や活用、これまでの文献検索(図書・雑誌等)状況、調査等で困っていることや困ったときの対処法、検索に関する図書館への要望である。81名に質問調査用紙を配布し、79名から有効回答を得られた。質問調査の集計結果を以下に示す。

表1は、回答者を学部別に数えたものである。人文社会科学部17名、理学部45名、農学部16名、教育学部1名である。

 

表2は、回答者を学年別に数えたものである。1年生が0名、2年生が45名、3年生が5名、4年生が2名である。2年生が中心に受講している授業である。

 

表3は、「図書と雑誌の違いはわかりますか」の問いに対する回答である。違いがわかると考えている人が59名、違いがわからないと考えている人が19名だった。受講者の75%くらいがわかっているようだが、わからないと自覚している人も一定数いる。

 

表4は、「大学に入学した1年生のときに「新入生セミナーアドバンス編」を受講しましたか」の問いに対する回答である。受講した人が59名、受講していない人が19名、わからない人が1名だった。論文の検索を経験しているのは、全体の75%くらいである。

 

表5は、「(「新入生セミナーアドバンス編」の)受講した内容について記憶して、それを普段の学習等でいかしていますか」の問いに対する回答である。いかしている人が4名、いかしていない人が5名、わからない人が9名だった。有効回答の18名のうち14名がいかしていない、わからないと答えている。また未回答が41名もいた。設問の意図を理解できなかった可能性がある。

「いいえ」と答えた方にその理由を自由記述にし、書いてもらった。その回答を示す。
・ 必要とする場面にあまり遭遇しない
・ 使う機会があまりない
・ 1年生の間は論文の取り寄せをほとんどしないので、方法を忘れてしまった
・ そのときに特に興味のもてる内容だと思わないから
・ 普段の調べ物などは自宅でインターネットなどを利用して調べてしまうから
・ あまり本を読まないから
・ あまり図書や雑誌の検索をしないため
総じて、論文検索を使う機会やその必要がないため、普段の学習等でいかしていないものと思われる。

表6は、「大学に入学した1年生のときに「新入生セミナーベーシック編」の受講した内容について記憶して、それを普段の学習等でいかしていますか」の問いに対する回答である。いかしている人が40名、いかしていない人が20名、わからない人が19名だった。いかしていないあるいはわからないと答えている人が全体の約50%である。

「いいえ」と答えた方にその理由を自由記述にし、書いてもらった。その回答を示す。
・ 使う機会(必要性)がないから
・ まだ必要と感じたときがないから
・ 図書・雑誌の検索を必要とする場面がなかった
・ そのとき教えてもらっても3年や4年になったときには忘れてしまうと思ったから
・ 図書および雑誌を活用する機会がない
・ 普段から図書も雑誌もあまり参考にしていない
・ 記憶があいまいで検索ができなかったから
・ 図書館をあまり利用していないため
・ 図書館に行く機会がない
・ 本は借りずに買っている
・ 特に授業で使う内容を図書館で調べなかったから
 自由記述の部分で「必要がない」「機会がない」のほかに「普段から図書も雑誌もあまり参考にしていない」という回答がある。これは、Yahoo、Google等検索エンジン(以下、検索エンジンとする)のみの調査でレポート等の課題を仕上げていることを推測させる回答である。

表7は、「先生からレポート課題が出されたときに、まず何を使って調べますか」の問いに対する回答である。図書・雑誌と答えた人が20名、検索エンジンと答えた人が50名、データベース(CiNii、LEX/DB)と答えた人が4名だった。有効回答74名のうちの50名、68%がYahoo、Google等検索エンジンであると回答しており、CiNiiなど論文検索を目的としたデータベースを最初に利用している学生が少ないことがわかる。

 

3.質問調査の結果から感じたこと
 今回、質問調査を実施した結果、教員からレポート課題が出されたときに全体の70%近い学生が最初に検索エンジンを使っていた。検索を効率的に行うために検索エンジンを使うことはよいと考える。しかし、多くの学生が主に検索エンジンから得た情報を使ってレポート等の課題を仕上げているのではないか、と懸念を抱いた。その一方、検索エンジンは事前調査のために使い、使い分けをしている学生や検索エンジンと併せて図書や雑誌等を調べている学生もいた。質問調査では、調査等で困っていることや困ったときの対処法について自由記述してもらった。その内容を見ると、大多数の学生が情報の信頼性や質に疑問を感じていた。例えば、適切にキーワードが選べなかったり、思うような情報を選べなかったり、見つからないあるいは情報を取捨選択できなかったりすること等に苦慮していることがわかった。それ以外にも気になる記述が複数あった。例えば、すぐにPDFファイルで論文が見られないとその論文は見られないものと誤解していたり、開架書架にある資料だけで間に合わせていたりする場合がある。また無料で論文が見られない場合は論文を読むことをあきらめており、書庫に資料がある場合は、時間があれば出納を依頼するが、たいていあきらめるという回答もあった。
 図書館に関する感想として、図書館の所蔵資料が少ないあるいは古い、課題が出されたときに同時に同じ図書を使う場合があるが、図書が複数ないため不便を感じていることなどの指摘もあった。
 今回行った調査によって、多くの学生が検索をする際に、CiNiiなどのデータベースを使わずに検索エンジンを使っているために、必要な情報を得られていない現状が明らかになった。学生が参考にしている主な情報が検索エンジンから得た情報のみでとまっているのではないか、セミナーアドバンス編がうまく機能していないのではないか、と抱いていた懸念が実感に変わった。このような課題を解決するために教職の講義と協働することで、学生に効果的に文献検索の力をつけることをめざした。その取組みについては、大学教育センター紀要で紹介することにする。