「第11回SDフォーラム」に参加して

園田秀久(財務施設部 施設課)
1.はじめに

平成25年10月20日、大学コンソーシアム京都主催の第11回SDフォーラムに参加させて頂いた。

過去に国立大学財務・経営センター主催の平成20年度「国立大学法人係長クラス勉強会」に参加、また平成21~22年度の同勉強会自体に企画委員として携わった経験があり、大学組織におけるSD(staff development)というものに興味を持っていた。フォーラム参加に先立ち、自分なりに少し予習を兼ねて整理を行った。

公益財団法人大学コンソーシアム京都(以下コンソーシアム京都とする)
 …大学、地域社会及び産業界との協力による大学教育改善のための調査研究、
  情報発信交流、社会人教育に関する企画調整事業等を行い、これらを通じて
  大学と地域社会及び産業界の連携を強めるとともに大学相互の結びつきを
深め、教育研究のさらなる向上とその成果の地域社会・産業界への還元を図る。
(設立趣意より抜粋)
 コンソーシアム京都の主たる事業の中にFD・SD事業があり、同組織のホームページによると、FDは教員を対象とし、授業内容・方法を改善し向上させる事が目的であり、SDは大学職員を対象とし、管理運営や教育・研究支援までを含めた資質向上を目的としている。FD・SDについては様々な定義があるようだが、とりあえず上記定義の認識とする。

 以前参加をした勉強会やいわゆる研修会はSDにおける一手段に過ぎないと考える。勉強会はテーマ、議論する内容、アウトプットを全て参加者で決めていくため、能動的でありモチベーション向上させる効果が高く、研修会は与えられた課題に対し、効率よくスキルを身につける事が目的のため受動的でスキルを向上させる効果が高い手段と捉えている。手段は他にも存在するはずであり、今回フォーラムのテーマである実践知から学ぶ方法もSDにおける手段として有効であろうという期待を持って参加した。

2.第1部 基調講演 「いかに経験から学ぶか~実践知の獲得プロセス」
北海道大学松尾教授の講演である。経験からの学習が人を成長させるとし、成功しているマネージャーにアンケートを採った結果、「自分が成長したと思えるのは様々な直接経験」であるという。松尾氏自身の経験も振り返りつつ、ずばり成長するきっかけは「やった事がない事をやる」ことであると。これは私自身の経験も振り返りつつ同意したい。では、同じような経験をしているにも拘らず成長の度合いが違うのは何故か。松尾氏は経験から学ぶ力のモデルとして「ストレッチ(挑戦する力)」「リフレクション(振り返る力)」「エンジョイメント(楽しむ力)」の3つを挙げる。この中で、「リフレクション(振り返る力)」に共感が得られた。日頃の業務の中で私自身が「自問自答」を意識している。この「自問」の内容は業務内容によって変わってくると思うが、重要なことは「振り返り」であり、そこから学ぶことであると再確認した。
前の職場では新任職員を配属前に研修と題し、組織全ての部署において3ヶ月間OJTを行っていた。私の係にも1日間割り当てがあり、初めに必ず「考えながら仕事をするようにしなさい。」と伝える事にしていた。その後「考えながら仕事をする」ことの具体例を提示したり、逆に考えさせるような質問をいくつか投げかけておいて考えさせたりしていた。今になって思うと日々の業務の様々な局面において「自問自答」するということは「考えながら仕事をする」事に繋がっているように思う。「自問自答」から振り返り、業務手段の修正又は新たな手段を導き出す…経験から学ぶ=実践知とはその積み重ねとなる。
松尾氏は経験学習に重きを置く企業-サントリー、KDDIエンジニアリング、ヤフージャパン-とその方法を簡単に紹介し、最後にこう結ぶ。
「経験から学ぶ力」を一言でいうと…適切な「思い(自己と他者への関心)」と「つながり(他者との関係)」を大切にし、「挑戦し、振り返り、楽しみながら」仕事をするとき、経験から多くのことを学ぶことができる。

3.第2部 分科会F
「個々のアイデアを具体化する自主性と自覚~未来工業の実践知に学ぶ」
参加者は6つの分科会に分かれ、私は上記のテーマを選択した。未来工業㈱はユニークな会社として数多くマスメディアに取り上げられているようである。私自身はTV放映で少し見かけたことがあり、名前を知っている程度であった。総務部 阪本総務課長により、会社における実践例を紹介し、その後質疑応答により会は進行した。以下、未来工業における面白い取り組みを箇条書きで紹介する。
・電設資材会社であるが後発メーカーであるため、一次問屋を飛ばして、二次問
_屋と付き合うこととした。理由は利ザヤが大きい。顧客の声が聞きやすい。
 (伝言ゲームでは1回で平均25%の情報が失われる)
・顧客の声を吸い上げた例
:コンセントボックスを作っている。コンセントボックスの固定手段を一般
_的な他メーカーは2か所止めとしている。1か所止めで取付が可能なよう
_に工夫した。→結果他メーカーより高いが売れている。
:配線用の塩ビ製配管を作る時に、それまではグレー色しか無かったが、
ベージュ色をラインナップに加えた。現在では他メーカーも追従したが、
 発表当初は非常に売れた。
・商売においてお客様は神様だが、お客様より社員の方が大事という方針。
 社員の不満を取り除く事が結果会社に跳ね返ってくる。
・給料の待遇ではなく、労働の待遇を考慮した。中小企業かつ後発メーカーとして
 社員における給料の待遇は難しいと考えた。従って…隔週週休二日→完全週休
 二日にして休みにした日を勉強する日とした→飛び石休みを連続休暇にした
 →全社員対象で5年毎に海外旅行へ行く。
・毎年1回作業服を支給していたが辞めた。替わりに1万円支給とし、作業服以
_外でも何に使ってもOKとした。ただし、給料に組み込むのではなく、10月1日を
 作業服の日とし、直接手渡しにて現金支給とした。手渡しが大事であると考える。
・蛍光灯に紐が付いている。タスクアンビエント。蛍光灯をケチっても、金額は
_たかが知れている。必要ない照明は消すという、その気づきの発想が大事で
 実施している。目利きを育てる、考える姿勢を育てるため。そしてそれを習慣化
 することが重要。
・60歳定年→70歳まで延長可能とした。定年は自分で決める。
・ホウレンソウの禁止とした。責任があいまいになるため。報告したことによって
 責任を放棄することに繋がる。情報共有は大事だが、その事により責任放棄
 することにならない工夫が必要である。
・研修制度は、職場からは強制で行かせない。強制で行かせても身に付かない。
_自己啓発(個人からの自主研修参加依頼等)にはバックアップを行う。
_強制的な研修→お金が無駄。
・社員については結構放任主義。ただし、放任にていても大丈夫なような土壌を
 つくる。
・タイムカードを無くした。勤務時間は自己申告制に変更した。
・社員食堂の食券制度を無くした。何食食べたかは自己申告制とした。
 ズルをすることによる損失と食券発行の手間による損失、どちらがお金が
 かかるかで決断した。
・提案制度を取り入れている。1つの提案を出したら500円支給することとしている。
 ただし給料を上げる、他人の悪口はNG。
・最近の提案されたアイデア…荷残し防止で、運送会社の作業に立会い残業を
 行っていた。→立会いを辞め運送会社に任せた。立会いのみの仕事が無くなった。
・社訓ではないが、「常に考える」というモットーがある。
未来工業における「常に考える」というモットーは、後日確認したところ会社
 ホームページのトップページに記載があった。前段に記した私が部下に対して
 OJTで最初に伝えていた言葉と同じである。

4.最後に
SDにおいて「実践知の獲得」方法を確立できれば、有効な手段に成りうる。また「実践知の獲得」において重要な要素である「振り返りの力」は「常に考える」という姿勢を身につけることで、鍛える事ができそうである。大学職員が「常に考える」事を習慣化する土壌を作っていく事が求められるが、個々の意識によるところが大きいとも感じる。ただ、日頃の業務の中で「常に考える」事を誘発する「しかけ」は存在しそうであり、今後その「しかけ」を作り、業務の中に取り入れていく方法を考えていきたい。