弱いつながりの人間関係が持つ魅力について
 
(大学教育センター 坂井敬子)
 

 卒業のシーズンです。この時期になると,新しい生活を始めようとする人たちに感情移入して自分も多少高揚した気持ちを感じます。でも,別れるさみしさというのはほとんど感じません。たとえそれまで強いつながりでいた人とも,SNSを介さずとも,同じ業界であってもなくても,またどこかで会える,会えたら以前のように話ができるという,緩やかなつながりを感じるためです。
 私は心理学を専門としており,心理学の授業の中ではたびたび人間関係を扱います。大変有名な研究に,アメリカのアラメダ州で行われた「アラメダ・スタディ」というものがあります。この研究では,人間関係の量的側面に着目していますが,対象者の人間関係の豊かなほど後年の死亡率が低かったという大変ショッキングな知見が示されています(注1)。また,発達心理学者のトマセロによると,人間が他の類人猿と一線を画すのは,生まれもっての他者志向性であるとのことです(注2)。これらを考えると,人は他者とのつながりなしには生きていけないといえそうです。しかし,大変重要なことに,人間関係は人に幸福をもたらすと同時に,葛藤を生む源でもあります。人間関係というのは諸刃の剣であり,私たちは,そうした人間関係そのものとうまく付き合っていく必要があるといえます。人間関係にまつわる葛藤の一因は,強い人間関係に強くこだわるあまりに,弱かったり緩やかだったりする人間関係の良さに目を向けていないことにあるのではないかと私は考えます。
 社会学者のグラノヴェターは,頻繁には会わない人との弱いつながり(Weak Ties)が,ホワイトカラーの転職にとって有効な情報をもたらしてくれる傾向があると示しました(注3)。少し事情は違うものの,日本の労働者にも弱いつながりの有効性があると示されています(注4)。弱いつながりは強いつながりに比べ,人を多様な人々に結び付けるところに良さがあります。自分とは異なる集団に属する人とつながることで,普段は聞かない情報を得られるからです(注5)。なお,「弱い」という言葉にはどうしてもネガティブな価値がつきまといますので,頻繁には会わない他者とのつながりのことを,私は「緩やか」と言い換えることもあります。
 「強い絆」といった言葉を最近よく耳にします。当然,その良さはあるわけですが,この言葉が溢れれば溢れるほど,弱い(緩やかな)つながりが軽視・忌避・批判されていく感も否めません。しかしむしろ,グローバルで変動の激しい現代社会では,弱いつながりの構築と活用がカギを握っていくのではないかと考えられます。私が担当している大人数科目の「キャリアデザイン」では,履修生に,できる限り初対面の人と交わること,その人たちとの課題遂行や情報交換を推奨しています。誤解を生みやすいのですが,求めているのは,強いつながりの構築ではなく,逆に,緩やかなつながりに馴れてその「強み」を知ることです。私自身,これまでの産業界ニーズ事業(注6)などの業務の中で,大学関係者や産業界など,学外の人との,どちらかというと緩やかといえるつながりを多く持っています。業務自体は大変ハードでありますが,本学業務に参考になる学外の取組情報を聴くことができたり,情報交換を通じる中で共感を得られたりなど,緩やかなつながりの大切さや心強さを実感しています。

<注>
1 J.Houseman & S.Dorman(2005)’The Alameda County Study: A Systematic, Chronological Review’ American Journal of Health Education, Vol.36, No.5, pp.302-308.
2 M.トマセロ(著)橋彌和秀(訳)(2013)『ヒトはなぜ協力するのか』勁草書房
3 M.グラノヴェター(著)渡辺深(訳)(1998)『転職―ネットワークとキャリアの研究』ミネルヴァ書房
4 渡辺深(2014)『転職―人と仕事のソーシャル・ネットワーク』ミネルヴァ書房
5 上記4再掲。
6 静岡大学 大学教育センター「産業会ニーズGPとは❓」 http://career.hedc.shizuoka.ac.jp/(最終閲覧日2015年3月1日)

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