旅立ち

エゲンベルグ・トーマス(大学教育センター)

_3月31日をもちまして静岡大学を退職することになります。でも、それだけではありません。ちょうど20年の日本での生活も終わろうとしています。家族と一緒に国に帰ります。帰ると言っても、帰るでもないような気がします。僕自身はその20年の間、ずいぶんと変わったし、スイスもずいぶんと変わりました。かつて、自分の財布ほど親しかったスイスは、日本に来た時と同じような謎めいた国に変わりました。つまり、貨物船に乗って日本に向かった時と同じように人生のリセット、新たな旅立ちになります。50歳を超えたところで、かなりの冒険です。不安です。でも、それで良い。つらい時があっても、新しい経験や発見がたくさん待っているでしょう。

_もちろん、子供の将来のためでもあります。だいぶ前から感じていますが、人は常に、馴染んでいる生活の中に生きています。文化、社会、言葉などは世界に様々ありますが、たいていの人は、自分の国の文化や社会しか知らないのです。それは、いくらテレビを見たり旅行したりしても、簡単に変わらないです。外の世界を知らないからこそ、自分の国はやはり、一番、そういう自分が育てられてきた環境の固まった考え方や感じ方は、長く長く母国や母語の外に暮らさない限り、なかなか溶けないものです。母国や母語の外に暮らすと、自分自身だけではなく、自分の国も違う姿を見せ始めるのです。なるほど、あまり良く知らなかったのだ、自分の国のことはと、びっくりするかもしれません。息子は静岡生まれ静岡育ちで、今は11歳ですが、せめて20歳ぐらいまで異なった文化、言葉、教育、価値観などを経験させたいです。世界は広々。その広さに負けないぐらい、子供の中で豊かな発想や心が育てればいいなと願っています。

_スイスに帰ったら、主に文芸翻訳家として活躍するつもりです。うまくいくかどうはしりませんが。運に任せるしかないです。(笑)

_静岡の夢のような光、海、山々を僕たちは一生忘れることはないと思います。ちょこちょこまた静岡に戻ると思います。

_終わりに、あらゆる学部やセンターの先生方にもスタッフにも心より深く感謝を申し上げたいです。静岡大学での時間は僕の人生の中で貴重な時間となりました。長い間、大変お世話になり、誠にありがとうございました。

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