【渡邊貴子・図書館情報課】教員と図書館職員による協働授業(試行)から得られたこと-4回目の実施を終えて

教員と図書館職員による協働授業(試行)から得られたこと-4回目の実施を終えて

渡邊貴子(図書館情報課レファレンス係)

 平成24年度後期から、試行で大学教育センターの松尾由希子先生と協働授業を行い、これまでの実施回数は4回になった。平成25年10月と11月に国立情報学研究所平成25年度学術情報リテラシー研修(以下学術情報リテラシー研修)において「教員と図書館員が連携する学術情報リテラシー教育」というテーマで松尾由希子先生といっしょに講師を担当し、私たちが実施している協働授業について報告した。協働授業の詳細や質問紙調査の結果等は、「学生の文献検索能力の現状報告」(web「静岡大学大学教育センターニュースレター」2012年12月4日掲載)、「教員と職員の専門性をいかした協働の試み-教職科目における協働授業の実践」(『静岡大学教育研究9号』2013年3月)、「学生の文献検索能力の定着の分析」(web「静岡大学大学教育センターニュースレター」2013年10月1日掲載)で報告したので、ご参照いただきたい。
 4回の協働授業、また学術情報リテラシー研修の講師を担当する上で情報を整理していくなかで、憶測を含んでわかってきたことや見えてきたことがある。今回はそれについてご報告したい。すべての協働授業で同じ内容の質問紙調査を実施したが、結果はほぼ同じであった。つまり、質問紙調査の結果を氷山の一角とは思っていたが、複数回行った結果により、多くの学生が同じような傾向にあることが裏付けられた。
協働授業の結果、レポート作成や情報検索技術の習得は、教員と図書館職員からのフィードバックにより、情報・知識の修正が可能になり、正しい知識の定着につながっているものと思われる。そして「レポートを作成し、提出する」という目的をもった情報検索技術の習得が、学生の理解の定着に大きく影響していると考えられる。
協働授業を通して、学生の傾向も見えてきた。説明時の情報量の多少が知識の定着にも影響していると思われる。そう感じたのは、4回目の協働授業の論文・新聞検索実習の際、新たな情報を追加したところ、それまでの実習と比較して、理解度が落ちた。新しい知識をどれくらい説明するか、説明する側の情報量の調整が必要であると感じた。さらに紙に書かれたことを読まない学生が多い。文章が長かったり、文字数が多かったりするとなおさらである。協働授業での配布資料は文字数を減らし、検索をするための必要最低限の情報にとどめている。それでも、紙に書いてあることに安心をするのか、読むのが面倒なのか、読まずに済ませる傾向がある。質問紙調査の結果からすぐにPDFファイルで論文が見られないとその論文は見られないものと誤解している学生が多くいることがわかったので、論文・新聞検索実習では、「PDFで読めるものは、ごく一部であること」や「PDFファイルがなくても論文を読むことができること」も説明をしているが、それでも論文・新聞検索実習で、学生はすぐにPDFで読めるものを中心に探していた。これは一部の受講生に限ったことではなく、受講生の多くがこのような傾向にある。しかし、ワークシートの提出や(松尾先生がお認めになっている)再提出、レポート作成を経験する過程で、すぐにPDFで読める論文だけでは、レポート作成やプレゼンテーションの準備に不足があることに気づき、最終的には、他機関から論文を取寄せるまでになっていた。「PDFで読めるものは、ごく一部である」と説明したところで、必要な論文がすぐにPDFで読めれば、便利であることは言うまでもない。もしそれで事足りるのであれば、それで済ませたいと思うのは当然だろう。言葉で説明してもそれに説得力はなく、身をもって経験したことからしか学ば(べ)ないのではないかと感じた。
松尾先生は「文献検索技術の習得は、目的ではなく手段でしかない」と、また学術情報リテラシー研修で講師を担当された野末俊比古先生は「情報リテラシー教育は問題解決の能力を身につけるための手段である」とおっしゃっている。協働授業を振り返ってみると、これらのことがよく理解できる。「教員と職員の専門性をいかした協働の試み-教職科目における協働授業の実践」(『静岡大学教育研究9号』2013年3月)のなかで、効果的な学習支援の要因として「動機づけ」をあげた。今まで初年時教育で図書館が実施しているセミナーは、特に動機づけもなく「文献検索の方法」を教えていた。動機づけがないから、情報検索方法を習得できないとまでは思わない。しかし、何らかの目的をもった文脈のなかで、文献検索の方法(に限らない情報リテラシー)を教授し、学ぶことが、文献検索技術(に限らない情報リテラシー)の習得には必要であると思われる。
学術情報リテラシー研修の講師を担当し、何かと難しい社会状況の中、他機関もわれわれが抱える問題と同様の問題等を抱えていることを知った。そういったなかで、中央教育審議会大学分科会組織運営部会審議のまとめ「大学のガバナンスの推進について」(審議のまとめ)に「事務職員の高度化による教職協働の実現」があげられている。また大学図書館の整備について(審議のまとめ)-変革する大学にあって求められる大学図書館像-のなかでも「大学図書館に求められる機能・役割」として、「学習支援及び教育活動への直接の関与」があげられており、「大学図書館職員に求められる資質・能力等」のなかの「教育への関与における専門性」は、以下のように述べられている。

「中でも学部教育のカリキュラムに情報リテラシー教育が盛り込まれていくことは自然の流れとなっている。そのため、今後、大学図書館の大学教育への関与の重要性が強調されていくことになろう。こうした状況に対応して、大学図書館職員が情報リテラシー教育に直接関わることは、新しい方向性であり、教員との協力の下に適切なプログラム開発を行うことが課題である」

私たちが行っている教員と図書館職員による協働授業はまさにこの課題に沿うものである。
松尾先生と渡邊が試行で行っていた協働授業が附属図書館の業務として正式な実施に向けて動き始めたところである。しばらくは、松尾先生がご担当される講義でのみ実施の予定である。来年度以降は、係や担当を越えて実施することが決まった。平成26年度は、教員側から担当者としての条件が提示され、渡邊を含めた3名が協働授業の担当者を希望している。学術情報リテラシー研修でも、多くの受講生から「協働授業の今後が知りたい」とお聞きしていたので、具体的に動き出したら、協働授業の今後についてもまたご報告できるとよいと思う。