【松尾 由希子・大学教育センター】教員と附属図書館職員の協働授業正式実施に向けての課題

教員と附属図書館職員の協働授業正式実施に向けての課題

松尾 由希子(大学教育センター・講師)

 平成24年度後期よりレファレンス係の渡邊貴子さんと共に行なってきた協働授業も4回を終えた。協働授業は、レポートやレジュメ作成のための適切な情報リテラシー獲得を目的とし、教員と図書館職員が互いの専門性を活かしながら協力して実施するものである。実際に共に授業を行なうのは1つの授業(15コマ)のうちの1コマであるが、その授業前の準備(打ち合わせや資料作成)や授業後の処理(ワークシートの点検やコメントペーパーへの返信等)も共に行なっている。現在、静岡キャンパスで私が担当する全学教職の授業「教育の原理」(2つ)・「特別活動論」(1つ)で実施している。渡邊さんの分析により、協働授業を通して受講生の文献検索能力の定着が確認できた(渡邊貴子「教員と職員の協働授業による文献検索能力の定着の分析―質問紙調査の結果より―」web大学教育センター「ニュースレター」2013101日掲載)。また、図書館職員が授業の中で講義することで学修支援者として「みえる存在」になり、受講生が図書館や図書館職員を活用する様子もみられるようになった(松尾由希子「教員からみる附属図書館職員との協働授業の意義」web静岡大学大学教育センター「ニュースレター」201371日掲載)。以上のような成果をふまえて、試行段階にあった協働授業を正式に実施したいと20137月より図書館に働きかけてきた。協働授業の正式実施を求める理由は、担当者の業務環境の整備と担当者を渡邊さん一人に固定しないことにある。正式実施に向けて、12月末には図書館職員の理解を得るために図書館職員研修で、渡邊さんとともに協働授業について説明した。具体的には、協働授業の構成や成果、受講生の文献検索能力の実態などである。その結果、図書館職員から新たな取り組みに対する不安もでたが、同時に「協働授業の正式実施は図書館が取り組むべきこと」「図書館職員の経験値をあげる機会になる」などの意見があがり、協働授業の実施体制についての話し合いもあったときいている。後で詳しく述べるが、教員側(松尾)から図書館側に、担当者を選ぶにあたり条件を出した。1つは、協働授業に対して意欲をもって取り組める人、2つは、学生へ配布する資料を担当者自身が作成することである。1月には来年度の担当者も決まり、正式に実施できそうだときいていたのだが、3月に入ってから、担当者選びに関わる私の条件と図書館側の折り合いがつかなかったとの報告があった。つまり、来年度はこれまで同様に試行として実施できるものの、正式実施は見送られることになった。再来年度以降の正式実施をめざして、来年度も交渉を続けたい。本来であれば、折り合いがつかなかった点について図書館側と話し合う必要があるのだが、年度末の人事異動などでその機会を得られなかった。来年度の協議を効率的に進めるために、これまでの協働授業で得た経験をふまえて、担当者選びの条件に込めた意図について記録にとどめたい。

1 協働授業の担当者選びの条件について

 協働授業の担当者選びについて、特に2点を図書館にお願いした。1つは意欲をもって取り組もうとする職員と協働授業を行ないたいこと、2つは原則として担当者が資料を作成することである。しかし、この2点について図書館側と折り合いをつけることができなかった。

1)なぜ、意欲のある図書館職員を求めるのか

 協働授業担当者は、大学図書館職員に求められる資質・能力等を理解したうえで、図書館職員としての専門性を活かして教員とともに学生の教育(今回の場合は授業)にあたりたいと考えている人を選んでほしいとお願いした。つまり、担当者は指名されるのではなく、自ら希望することになる。パートナー(協働する図書館職員)の意欲を重視する理由は、2点ある。

1つは、協働授業に関わる業務量の多さである。特に担当初年度は、多くの時間を要する。資料作成や受講生のワークシートの確認(文献検索技術が身に付いているか)などに多くの時間を割くことになる。この作業は、図書館職員だけで行なうものでなく、教員とコミュニケーションをとりながら行なうため、打ち合わせの時間も必要になる。授業目標や理念、方法について双方が意見を出し合い、念入りに打ち合わせをする。実際に、私と渡邊さんは時間をかけて授業を作りあげてきた。これまでの経験をふまえると、双方に意欲がないと、これらの作業を効率的かつ効果的に進めることは不可能だろう。

2つは、教育者として学生の前に立つからである。受講生は教員を目指しており、自らも授業を作る機会がある。そのため、授業担当者の意欲の有無を敏感に察知する。また、めまぐるしく変わる社会に対応するために、今日の教員は生涯を通じて学び続ける姿勢が求められている。その姿勢は、学生段階から身に付けることが求められるため、私も生涯学習を意識した授業構成にしている。適切な情報リテラシー獲得をめざした協働授業もその一環である。学生に学び続けることを求める以上、学生を教育する者は、意欲的に学び続ける姿勢を確かな知識とともに示す必要がある。

以上のような理由により、上司に命令されたから担当するという動機だけでは、多くの時間を使い、教員とこまめにコミュニケーションをとり、熱心な学生の前にたつことは難しく、学生にとっても職員にとっても教員にとっても良い効果は得られないと考える。

この条件について、図書館側から「希望者を募るのではなく、業務として義務的に決めるべき」であり、例えばレファレンス係などの係の業務とするべき」という案が出された。それが3月に入って示されたために、話し合う時間もなく、合意に至ることはできなかった。特定の職員への負担を避けるため、協働授業の担当者の1年任期を提案したのだが(ただし、教員と図書館職員が合意すれば更新できる)、この方法では希望する図書館職員がいなくなると、実施できなくなる。実際、このような状況に陥る可能性はある。現在、実施している協働授業は3つであり、来年度の担当を希望したのは渡邊貴子さん、青池菜衣さん、森部圭亮さんの3人である。確かに不安定な状況であるが、今後やむにやまれぬ事情等によって希望者が0になったとしてもしかたのないことである。意欲のある図書館職員と教員が協働することで効果を見込めると考えているため、希望者がいないという理由で協働授業に意欲のもてない人と組む意義を見出すことは難しい。浜松キャンパスの「教育の原理」では、渡邊さんの資料を使わせてもらい、私一人で文献検索実習を行なっている。そのため、協働授業の希望者がいなかったとしても、静岡キャンパスでも同様の形態で実施できるだろう。

2)なぜ、担当者ごとに資料作りをするのか

 私は、協働授業を担当する図書館職員に、受講生が論文及び新聞記事検索の技術を身に付けられるようにしてほしいとお願いしている。適切な文献検索技術習得が、よりよいレポート・レジュメ作成に通じる。渡邊さんは、私から学生の実態を聞き出したうえで、自らの知識、教員の要望等を入れて、学生へ配布する資料を作成してくれた。渡邊さんは資料を作ると、私にコメントを求め、二人で話し合う中で加筆修正してきた。今でも授業後には学生の反応をみながら、資料を修正している。その資料には、図書館職員としての渡邊さんの知識、教育目標、教育理念、教育方法が凝縮されている。資料は、図書館職員が作成するものであるが、完了するまでに何度も図書館職員と教員の間でやりとりをする。協働授業正式実施に向けて、「実施要項」(仮)を作成している際、私から図書館側に「教員は、協働授業に関わる作業について、担当者に一任するようなことはしない。質問に対応し、環境や要望等にも柔軟に対応する。」という文言をいれてもらった。「学生はどこまでわかっているのか」「このような表現で伝わるか」「なぜ、その資料を提示する必要があるのか」など、図書館職員と教員のこのようなやりとりこそ協働授業の醍醐味の一つであると考えている。資料を作る際、図書館職員は受講生と教員について、知る必要に迫られる。学生は、どこまで文献検索の技術をもっているのか。どのような言葉であれば理解できるのか。教員が受講生に定着させたいと考えている文献検索技術のレベルはどの程度なのかなど、教員を通じて聞き出すことになる。受講生の実態について、渡邊さんは私から聞き取るだけでなく、文献検索実習の前までに受講生にアンケートをとって確認していた。また、図書館職員の知識をよりわかりやすく学生に伝えるための表現を工夫することになる。こちらについても、渡邊さんから相談があったため、「文章より箇条書きのほうが頭に入りやすいようだ」「画像を使い、視覚的にわかりやすくしてはどうか」「教育学の授業であるため、こういう質問を投げかけるとレポート課題にも近くなり、受講生も意欲的に聞けるかもしれない」などとやりとりを重ねた。協働授業対象の授業(「教育の原理」「特別活動論」)全体の様子をしるために、渡邊さんはオリエンテーションにも出席している。以上は、図書館職員のメリットのようにも思えるが、教員側のメリットも大きい。資料作成時に、図書館職員とやりとりをする中で図書館職員のもつ文献検索技術のスキルに気付き、教えてもらえることが多々ある。例えば、論文検索のためのデータベースであるCiNiiは、学術雑誌以外の雑誌も網羅しているため、受講生は知らないうちに、学術雑誌以外の「論文」を参考文献として使用することがある。渡邊さんに事情を話して、「CiNiiに入っている非学術雑誌のタイトルをまとめて知りたい」と相談したところ、文献検索実習までに非学術雑誌の一覧表を作成し、学生に配布してくれた。このように互いにやりとりをする中で、図書館職員は、教員が学生に付けさせようとする技術や知識及び学生の実態を確認し、学生に説明するために自分の専門性を確認し、場合によっては学び直す。加えて、教員と図書館職員が互いの専門性を知り、活用することが可能になる。担当者の資料作成は、図書館職員・教員にとって意義あるものであり、結果として学生の文献検索技術の向上にも結び付く。

 しかし、図書館側から「資料は担当者ごとに作成するのではなく、共有するべき」という指摘をうけた。資料を共有することで同じクォリティでの実施が可能になるからとのことである。同じ資料を使ったからといって、担当者は異なるにも関わらず同じクォリティを保てるだろうか。そもそも、同じ人間が同じ資料を使って、別々の集団に説明しても、受講生の数や異なる集団の雰囲気等に左右されて同様の効果が出ないこともよくある。実際、渡邊さんと「教育の原理」の協働授業を3回行なったが、全て同じようにうまくいったかというと「今回は以前よりうまくいかなかったような気がする」と話したこともあった。担当者が自ら作成することなく、すでにある資料を用いて説明するのであれば、授業や受講生に慣れた教員のほうが適任であり、図書館職員に講義してもらう意味を見いだせない。私は、資料を作成する際に図書館職員が自分の知識や理念をもう一度見つめ直して、場合によっては学び直して、教員から情報を引き出しつつ、自分の資料を作りだすという過程に意味があると考えている。そして、教員にとっても、アドバイザーとして資料作成の過程に入れてもらえる中で、図書館職員から得られることは大きいのである。

2 再来年度の正式実施に向けて

 来年度は、今年度までと同様に試行のまま実施することとなった。そのため、今後も再来年度以降の正式実施をめざして、図書館と話し合いたい。

 1つは、時間をかけて図書館側と交渉・協議を行ないたい。今年度は、12月に入ってから話し合いが進んだ。そのため、来年度までの限られた時間の中で、双方の合意に至らなかった。教員側に大事にしたい方針があるのと同様に、図書館には図書館の方針や事情がある。来年度は早い段階から、時間をかけて話を進め、双方にとって納得できる形での合意形成をめざしたい。

 2つは、新しく加わる2人の担当者(青池さん、森部さん)との協働授業の経験を参考にして、再来年度以降の協働授業のありかたについて考えたい。これまで渡邊さんと協働してきたが、お二人は渡邊さんと異なる資料の作り方、授業の進め方等があるだろう。これまで渡邊さんと行なってきたことが通用しない可能性もあるし、同時に渡邊さんと培ってきた経験がお二人との関係にも活かせる可能性もある。3人と協働授業を行なうことで、新たにみえてくることもあるだろう。3人と協働する経験を活かして、今年度折り合いのつかなかった条件の検証も行ないたい。その一つに資料作成がある。今の段階では、原則として資料は担当者に作成してもらいたいと考えているが、共有できる部分・担当者が作成するべき部分というように組み合わせるやり方などもあるかもしれない。

12月末、静岡キャンパスの図書館職員に協働授業の説明をした。そのあとに、青池さんと森部さんから「不安もあるけれどもぜひやってみたい。できるだろうか。」と話しかけられた。「もちろん!ぜひ一緒にやりませんか。」とわくわくしながら答えたことを思い出した。協働授業の正式実施は少し遠のいてしまったが、図書館職員と少しずつ成果を積み上げ、時間をかけて図書館側と話をしていくことで、正式実施も近づくのではないかと期待している。