平成26年度(第51回)国立大学教養教育実施組織会議・同事務協議会の参加報告

平成26年度(第51回)国立大学教養教育実施組織会議・同事務協議会の参加報告

佐藤 翠(学務部教務課)
翟 勇(大学教育センター・講師)
松尾 由希子(大学教育センター・講師)

 平成26年度(第51回)国立大学教養教育実施組織会議・国立大学教養教育実施組織事務協議会が、5月29日(木)から30日(金)にかけて京都で開催された。分科会と事務協議会について、報告する。

1事務協議会報告(報告:佐藤翠)

事務協議会の議事となった三点の協議題について報告する。
(1)授業の実施回数及び学生の出席状況の管理体制について
授業回数の確保:祝日が月曜に偏っている現状から、他の曜日を振り替える、学期末に不足曜日を補填するなどの対応をしている。
学生の出席状況の管理:出席管理システムの導入が進んでいるが、出席を管理するというよりむしろ、学生をサポートするためのツールとしての活用が期待される。欠席が続く学生に連絡を取るなど、問題を抱える学生を早期に発見する取り組みをする大学もある
(2)TOEFLの全学実施とその活用状況について
多くの大学でTOEFLを単位認定の基準としているほか、一部の大学ではTOEFL ITPテストの全学実施の導入をはじめている。
国際的水準における自分の能力を認識させ英語学習への意識を高める、習熟度別のクラス編成に活用する、複数回受験させる場合には教育効果の検証を行うことが期待されている。一方で、問題としてTOEFL ITPは公式なスコアとして使用できないことや全学実施のための予算の確保が難しいことが挙げられた。
(3)TAへの研修の実施及び活用状況について
TAの採用は各研究科で行われていることが多く、教養教育における一般的な研修が不足しているが、活用度を高めるためには大学側でTAの目的や意義を整理し、教員に対しても理解を求めていくことが必要だという認識が示された。
学生に対する事前研修として、教養教育の意義・体制の紹介も含めた全学的なガイダンス、担当科目の分野ごとに分かれた研修やグループ毎でのテーマディスカッション、ワークショップ型研修などの取り組みが紹介された。また、業務終了後には報告会を実施したり、教員・TAの双方から報告書を提出させたりすることで、TAの実効性を高めるサイクルが取り入れられている。
これらの研修は参加率が低いことが課題とされるが、研修の満足度を高め参加者増につなげた事例や、参加を義務付けている事例も紹介された。
 議題は多岐に渡ったが、どの大学も共通する課題を抱えていることを改めて確認する機会となった。必要に応じて他大学の先行事例も参考としつつ、質の高い教養教育の実施の実施に努めていかなければならないとの思いを強くした。

2第四分科会「学びの質的転換の実践について」の全体報告(報告:翟勇)

 分科会では、京都大学、北海道大学、広島大学、名古屋大学における学びの質的転換の実践状況を紹介しました。簡単に各大学の実施状況を説明します。
(1)京都大学
 京都大学は一方的伝達から主体的学びへの転換が必要であり、そのためにアクティブ・ラーニングなどの取り組みについて情報共有したいという趣旨で「学びの質的転換の実践について」を提案しました。
 京都大学では、学びの転換を意図して1年生を対象とする少人数教育科目ポケットゼミを約180科目提供し、約1500名が履修しています。そこでは、OCWとEdX(MOOC)などの反転授業、全学共通教育学生国際シンポジウムを実施しています。ICTインフラ、ラーニング・コモンズ、アクティブ・ラーニングシアター、履修・学部管理システムとユース管理システム、及びこれらの連携(KULASIS-PandA連携)などによって、学習環境が整備されています。現在の課題として、教員、補助者の確保、主体的学習の成績評価、その後の効果の測定などが挙げられました。
(2)北海道大学
 北海道大学は反転授業の事例を紹介しました。北海道大学では、情報学Ⅰ(1年生必修、クラス20名)の学生が「白熱教室in Japan」を事前視聴し、テーマを選びグループごとに討論するという反転授業を実施しています。反転授業の効果として、①事前視聴により、全体として学習の時間が増える、②学んだ知識を使う機会が増加する、③学習の進展を促進する、などを挙げられました。一方、課題と留意点として、①インターネット回線と情報端末の整備、②十分な質と量のオープン教材、③大学外での自習時間を確保することが必要、などが挙げられました。
 
(3)広島大学
 広島大学では、アクティブ・ラーニングの促進に向け、全学必修科目「教養ゼミ」の実施方法としてPBL(Problem-based Learning:問題基盤型学習、問題立脚型学習)を推奨するとともに、FDとの共催により、教員の教育力向上を目的としたワークショップを開催しています。FDとしては、ファシリテーター養成ワークショップ、シナリオ作成ワークショップ、教材開発などの活動を行っています。
(4)名古屋大学
 名古屋大学は、基礎セミナー、学生論文コンテスト、芸術実技系基礎セミナー、大学院共通科目(体験型講義)、エースラボという5つの事例を紹介しました。
 アクティブ・ラーニングとは、文部科学省の定義によると、教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称です。言語学習について、イギリスの言語学者C.E.Eckersleyは「25%と75%の理論」を提案しました。これは、授業中の時間配分は先生が25%を占め、学生が75%を占めるのが理想的で、先生の説明は少なく、逆に学生が主体であるべきであるいうことです。学生が主体となり、多くの練習を重ねることは語学教育にとって非常に重要なことを改めて実感し、これからの授業では、学生主体の授業形態を積極的に取りたいと考えております。

3 第四分科会報告「学びの質的転換の実践について」の意見交換会から考える(報告:松尾由希子)

 私は、本分科会報告の後に行なわれた質疑応答や意見交換の中から、各大学が共通して抱える問題意識と今後の展開についてまとめたい。
(1)アクティブ・ラーニングなどへの学びの転換と学習の動機づけ
 分科会の報告では、「学びの転換」は専ら教授法の話として展開していた。そのような中で、フロアから転換すべきは教授法というより、学生の態度ではないかという意見があがった。この意見に対して、何をどのように学んでよいかわからない学生も多いため、アクティブ・ラーニングなどを通じて学びの目的をみつけ、動機づけが可能になるだろうという意見も出た。教授法の転換は、学生の学びへの意識を変える可能性のあることが確認された。
 今日、幼稚園教育要領及び学習指導要領では、学校は生涯学習の基盤を作る場所だとされている。大学は、高等教育機関としてより高いレベルで生涯学習につながる知識やスキル等を学生に提供する必要がある。アクティブ・ラーニングは、学生の主体的な学習方法であり、その中で学生は課題を見出し、課題解決のための情報を収集し、考察を進めていく。このような学習過程において、悩みながらも学ぶ喜びや達成感も味わうことができるだろう。アクティブ・ラーニングは、大学卒業後も学び続けていくことが期待される学生にとって、生涯学習の観点からも意味のあることと考える。
(2)教養教育と専門教育のつながり
 教養教育は、専門教育より「軽い」ものとしてみられている現状が、多くの大学から報告された。多くの大学では、主に低年次で行なわれる教養教育においてアクティブ・ラーニング等で動機づけを高めても、その後は学部の所掌になる。教養教育の成果を高年次にどうつなげていくか、高年次における教養教育の必要性についても意見交換がなされた。
 私自身研究していて思うのは、学問は有機的につながっており、自分に関係のない学問はないということである。教養教育は、多くの学生にとって一見自らの専門に直結しない学問のように思えるかもしれないが、実際は専門教育の視野を広げるものである。本来であれば、高年次の専門教育と並行して教養教育も行なわれるほうが良いだろうが、今日、多くの大学で教養教育は低年次で行なわれている。そこで、教養教育ではアクティブ・ラーニングなどを用いて、学問習得に必要な知識、スキルを高めると同時に学問の面白さを十分に感じてもらい、専門教育でも活かせるように、つながりを意識して何らかのしかけをつくっていくことも必要だろう。