【芳賀 直哉・大学教育センター】大学教育学会2010年度課題研究集会の報告

大学教育学会2010年度課題研究集会の報告                   

芳賀 直哉

 11月27(土)~28(日)の2日間、大学教育学会の課題研究集会(西宮市の武庫川女子大学にて開催)に参加したので、シンポジウムⅢ「共通教育のデザインとマネジメント」の様子を中心に報告する。
 このテーマの設定趣旨に以下のようにある。
「旧教養部出身の多くが退職時期を迎えている現在、従来型の教共通教育の維持が困難になっている。しかし、それは同時に、大学の特性に応じて独自の学士課程教育を構想する機会でもある」ので、共通教育についての議論を深める。
 この趣旨に基づいて、来年度に全国的な調査を主導するグループを代表して吉永契一郎氏(東京農工大)が「共通教育のデザインとマネジメントの現状と課題」を、また、主専攻・副専攻の教育プログラムを開発・実施していることで夙に知られている新潟大の濱口哲副学長が新潟大学の現状を、そして、設置基準の大綱化以後に開校した京都文教大学の中村博幸氏が勤務大学での15年間にわたる共通教育カリキュラムの改訂と実施体制の変遷について、それぞれ発表された。
 このうち、新潟大学の事例については、わたしは数年前(2007年度の龍谷大で行われた課題研究集会)に、ニューズレターNo15(2008年2月号)に報告しているので、そちらも併せてご覧いただきたい。今回新たに付け加えるなら、①新潟大のドラスティックな改革ができた前提として、教員組織の大幅な改変が前提になっていること、つまり学部→学系への改変をもとに学系ごとに教養教育プログラムを全学に提供できたということ、②キャンパスがひとつ場所にほぼまとまっているということがある。2キャンパスに分断されている本学がただちに参考にできる事例ではないと思う。
 もうひとつの大学教育学会として来年度にも実施する調査のことにコメントしたい。
 大綱化からほぼ20年を経過し、国立大の法人化からも7年が経った現時点を顧みるとき、あらためて教養教育のカリキュラム設計とその実施体制の衰退が問われるのは、十分予想されたことであって、「何を今更」の感がないでもない。また、シンポジウムテーマの「共通教育のデザインとマネジメント」も従前のいい方に置き直せば「教養教育のカリキュラムとその実施体制および実施組織」のことで、カタカナにしたからと言って、何か新しい状況が出現したわけでもない。たしかに、教養教育の中身については、大綱化当初には想像できなかったキャリア教育や初年次教育の充実等の新規軸が必須要件として入ってきたが、教養教育(共通教育という呼び名にはわたし自身は違和感がある。科目区分を示すときには「共通科目」とか「全学教育科目」の表示はできよう)の理念が大きく変わったわけではないと思う。旧制高校→旧帝大型の「教養教育=古典的素養の育成」が今や当の旧帝大系一流大学においても成立しないのは、この間の社会変動からして当然である。今や教養教育は「市民的教養の養成」であり、各種のスキル教育や職業選択力教育(広義のキャリア教育)等を身に付けさせることが社会(企業)からの要請である。
 その意味で、大学教育学会が新たに全国調査をして何を知ろうとするのか、何らかの示唆を発信できるのか、調査の目的があまり理解できないという想いを懐いた。