【翟 勇 (初修外国語科目部会副代表、大学教育センター)】アクティブ・ラーニングを目指す初修外国語授業

アクティブ・ラーニングを目指す初修外国語授業
翟 勇 (初修外国語科目部会副代表、大学教育センター)

平成24年8月28日中央教育審議会答申「求められる学士課程教育の質的転換」において、生涯にわたって学び続ける力及び主体的に考える力を持った人材の育成のために、受動的な教育の場から能動的学修(アクティブ・ラーニング)へ転換する必要があると示された。学生の主体的な学びを促進する方法として、アクティブ・ラーニングが注目されるようになってきた。
アクティブ・ラーニングとは、文部科学省の定義によると、教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称である。 学修者が能動的に学修することによって、認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力の育成を図る。例えば、発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習等が含まれるが、教室内でのグループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワーク等も有効なアクティブ・ラーニングの方法である。
ここでは、初修外国語(中国語)の授業で工夫した点を紹介する。

1.競争の形で授業をする
1990年代、第二言語習得についてStephen D. krashenは 「”i+1″ の理論」を提案した。この理論は、第二言語習得において、教育者は学生に対しi+1のレベルの内容を教えるべきだとする理論である。iというのは学生の現段階のレベルを指し、+1は学生の現段階のレベルよりもう一段高いレベルを意味する。つまり、iのレベル(学生の現段階と同レベルの内容)で授業を行うと、学生は授業を緩慢に感じ、勉強意欲を失ってしまうが、学生のレベルを把握したうえで、学生のレベルよりもう一段高いレベルで授業を行うと、学生は新しい知識を学んだ実感を持つことができ、学生が満足できる授業になるということを意味している。しかしながら、元々学生ごとの「現段階のレベル」を把握すること自体が難しいことであるため、実際にはこの理論は現場で活用することが非常に難しいと言語教育家に言われている。
私は、競争の形で授業をすることを通して、各学生のレベルを把握するように工夫した。競争の形で授業を行うと、学生は「負けたくない」という心理が働き、多くの発言や質問が出て、問題を解くようになる。教員はその様子を見ることで、各学生がどこまで理解し、どこを理解していないのかが把握できるようになった。学生の理解度を把握したうえで、i+1の理論を導入した授業を行い、分かりやすく、面白いと感じられる授業づくりに努力した。
中国語のピンイン、判断文、存在表現、形容詞述語文など勉強した各文法項目に、競争のゲームを準備した。たとえば、中国語の数字を勉強するときには、学生を4つの班に分け、1から30まで数える時間を計測し、どの班が一番正しく、短く数えるかを競争する。

2.学生が主体である授業
言語学習について、イギリスの言語学者C.E.Eckersleyは「25%と75%の理論」を提案した。これは、授業中の時間配分は先生が25%を占め、学生が75%を占めるのが理想的で、先生の説明は少なく、逆に学生が主体であるべきであるいうことである。学生が主体となり、多くの練習を重ねることは語学教育にとって非常に重要なことであると考えており、学生主体の授業形態を取るよう心掛けた。たとえば、「~は背が高い」「~の髪が長い」のような形容詞述語文を勉強するときには、ある学生にクラス内の誰かの特徴を中国語で述べさせ、他の学生はそれを聞き誰のことを言っているのかを当てる。

3.授業に集中できる環境づくり
良い授業には、教育者が用意する教材や教え方の質の良さが求められるが、それと同時に学生が授業に集中できる環境づくりも重要であると考えている。朝や午後の授業はどうしても眠気がくる時間帯なので、できるだけ眠気を払い学生が集中できるような環境を作るように心がける。具体的には、どうしても眠くなってしまった場合は、中国の文化、社会、風土、国民性、大学生活、日中文化の違いなどを授業中紹介し、眠気を払う同時に、学生の中国に対する好奇心を湧かせ、自然に中国語に対する勉強意欲が起こるように努力した。