【松尾 由希子・大学教育センター】静岡大学の今後の教員養成教育のありかたを考えるためにー実践交流ワークショップへの参加をとおしてー

静岡大学の今後の教員養成教育のありかたを考えるために
―実践交流ワークショップへの参加をとおして―

松尾 由希子(大学教育センター)

 2010年11月20日に、「課程認定大学における評価団体と連携した教員養成に関するモデルカリキュラムの作成に関する調査研究」プロジェクトが主宰するワークショップ「実践交流ワークショップ 教員養成教育のカリキュラム・マネジメントを考える」に参加した。今日、教員養成教育のカリキュラムは、改革のまっただ中にある。教員としての「資質能力」向上をはかるために、教職実践演習が導入されるなど、さまざまな取り組みがなされている。一方で、制度としてたちあがってはいても、はたして教員になるにふさわしい知識や技能を身につけられるカリキュラムになっているのか、と問われると法律以外を根拠に説明できない現状もある。さまざまな大学の教員養成教育の実践をきき、静岡大学の今後の教員養成教育のありかたについて考えるために、このワークショップに参加した。
 ワークショップは、主に2つから構成された。「課程認定大学における評価団体と連携した教員養成に関するモデルカリキュラムの作成に関する調査研究」プロジェクトチームが、教職課程をもつ大学に行なった質問紙調査の分析結果の報告と、グループディスカッションである。それぞれの内容について、以下に、簡単に概要をまとめたい。

(1)報告「教員養成教育のカリキュラム・マネジメント―その全国的動向」の概要
 この調査の目的は、教員養成教育の「質保証」のありかたについて、カリキュラム・マネジメントから検討するものである。266大学(回収率45.2%)の回答から、「より良いカリキュラム・マネジメント」を支える以下の7つの要素が明らかになった。①目標の共有、②学生向けの補助教材の作成、③学外関係機関との組織的連携、④大学教育の社会化、⑤恒常的な授業改善の組織化、⑥GPAの活用、⑦データ(卒業時収集、知的学力、卒業後の追跡調査、授業等に対する満足度)の活用である。
 この中で、相関があった3点について説明があった。1つは、「①目標の共有」と「⑤恒常的な授業改善の組織化」との関係である。組織として「統一的な目標を策定・共有する」ことと「具体的な個々の授業科目の改善・改革を図ること」との間に相関がある。2つは、「④大学教育の社会化」と「⑤恒常的な授業改善の組織化」との関係である。学外機関と連携・協同することによって授業を作り、その内容や評価も外部にゆだね、それを学内のカリキュラムにいかすというような流れになる。3つは、「⑤恒常的な授業改善の組織化」と「⑦データの活用」の相関である。この点については、特に国立大学で強い相関がみられた。しかし、必要なデータの収集・活用を行なっても、具体的に授業改善につなげる試みをしているのは、全体の3分の1程度にとどまってしまっている。国立大学に関しては、データを授業改善にいかしきれていないという課題が明らかになった。

(2)他大学の取り組み―ワークショップをとおして
 私のグループは、国立大学の教職大学院所属の教員、国立大学の事務職員、私立大学の教職課程担当の教員と私(国立大学の教職課程担当の教員)の4人で構成された。ディスカッションテーマは、「教員養成教育の改善の取り組み」「教員養成教育の『質保証』のあり方」という2つである。話を進めていく中で、大学によって教員養成をとりまく組織形態や組織の方針、外部との連携のあり方などがかなり異なっていて困惑することもあったが、テーマに対して以下のように意見交換ができた。
①体験活動で得られる「知識、技能」の質をどう考えるのか
 近年、教職科目に体験活動を取り入れることが増えている。体験活動を取り入れることについて、学校現場や学生からのニーズも高い。しかし、体験活動そのもので、教員も学生も満足しているようにみえる。「体験活動を通じて、何を学ぶのか」「それを学ぶにあたって体験活動が最適なのか」など、体験活動にどのような質保証をしていくのか、について話し合った。
②質の保証は、だれが、どこが担うのか
 総合大学の場合、実際は教育学部が担っていることが多いものの、責任の主体が明確になっていないため、質を保証するための基準が定まらない現状がある。また、大学によっては、大学が養成したい教員像が明確でないところもあるため、根拠に基づいた質の保証ができないこともある。
③大学が養成したい教員像と外部機関の養成像が一致しない場合について
 教育委員会や教育現場などが、大学のカリキュラムの内容について要望を出してくることがある。その際、教育委員会等と大学の双方が養成したい教員像について、完全に一致しない場合があり、調整が困難になる時がある。
 グループで話し合った後は、全グループの話をきいた。その中で共通して問題になっていたのは、現状を変えていくためには「理想」(教員像、カリキュラム、組織形態等)が必要になるが、「理想」について大学の中で合意形成ができていないという点だった。そのため、現状に問題があることを認識しながらも改善に向けた行動に結びつかない。特に、総合大学のように複数の学部がある場合の合意形成の難しさが指摘された。
 他大学の取り組みをききながら、静岡大学の教員養成教育の課題について考えた。1つは、静岡大学がめざす教員養成像の基準づくりである。「教員になるには、どのような知識や技能が必要か」「得た知識を、教員としてどのようにいかしていくのか」など、カリキュラム・マネジメントの基盤になる教員養成像の基準づくりを行なう必要がある。静岡大学では、教育学部以外の学部でも教職課程をおいて教員養成を行なっているため、全学的な取り組みが必要になる。静岡大学についても、教育学部とそれ以外の学部の教職課程との合意形成が十分にできているとはいいがたい。そのため、今後意識的に協同していかなければならない。2つは、静岡大学がめざす教員養成像を反映したカリキュラムづくりである。一部の大学については、教員養成像にもとづいてカリキュラム・マネジメントが行なわれていた。そのうえで、「はたしてそのカリキュラムで、教員になるうえでの質保証ができているのか」というカリキュラムの妥当性について、検討を重ねていた。静岡大学については、これから教員養成像を作成していく段階にある。教員養成像が定まったら、「絵に描いた餅」にすることなく、カリキュラムに反映させてその後も試行錯誤していく必要がある。グループディスカッションの中で、外部機関と大学のめざす教員養成像が一致しないことがあるという話が出ていた。大学に対して、体験活動を増やしてほしい、現場ですぐに使える技能をつけさせてほしいなど、外部機関のさまざまな要望がある中で、全てを満たすことはできないだろう。個々の大学で一定の基準(教員養成像)をもって外部機関の要請に対応する必要がある。今後、大学の中だけでなく、大学と外部機関が連携して教員養成を行なう機会も増えていく。外部機関にも静岡大学のめざす教員養成像を示して、合意のもと活動できるように、できるだけ早く教員養成像を作成する必要があるだろう。