【芳賀 直哉・大学教育センター】大学教育学会2011年度課題研究集会報告

大学教育学会2011年度課題研究集会報告

大学教育センター  芳賀 直哉

 

 2011年11月26日~27日に山形市中央公民館を会場にして開催された標記の集会に参加した。今回の研究集会のテーマは「大学教育の原点」というかなり幅のある内容であったので、「東日本大震災と大学」「学生主体型授業の可能性」「実践的な教養教育を求めて」「学生支援で学生はどのように変容しうるのかーボランティア活動支援からー」の一見統一性のないシンポジウム企画が4本並んだ。ここでは、わたしが同時に大いに啓発された発表に絞って以下に報告したい。
 開催大学の地域性から言っても、大学教育への甚大な影響からみても、「東日本大震災と大学」は時宜に適ったテーマであった。しかし残念なことに、基調講演の山本陽史山形大学教授の講演内容は、わたしには一般的解説の域をでないものと映った。むしろ、開催校企画である「学生主体型授業の可能性」シンポジウムの発表者に名を連ねておられた橋本勝富山大学教授「東日本大震災を学ぶ13の切り口」に期待していた。ところが、橋本教授は参加できないとのことで、配布されていた「要旨」にて概要を知るしかなかったことは期待外れで残念なことであった。本学でも数年前に(そのときは岡山大学所属の)橋本教授を講師にお招きし、学生参加型授業の実践例を紹介していただいただけでなく、ワークショップも指導してくださった。いわゆる「橋本メソッド」で知られる方である。そのかれが、今回の大震災をテーマとした大講義をどのように運営したのか、まさに実践報告を伺うことが、参加者に共通した期待でもあったので、かえすがえす残念ではあった。
 東北地方の大学では、学生や教職員の親族・親戚・関係者が被害にあったし、施設等も破損し、新学期の開始を遅らせざるをえなかったことは報道のとおりである。原発事故も含む今回の大震災を契機として、大学の授業(その内容と形態)が根本的反省と変革を遂げられるのか否か、このことは、ひとり東北地方の大学にとっての問題ではないであろう。
 東北地方の大学生だけでなく首都圏や関西圏の大学生も、震災復興のボランティアとして被災地に足を運んだことが知られているが、その活動を通じて学んだことは、大学での通常の学び以上の内容があったと思われる。他方で、本学では組織的な対応ができなかったことは遺憾である。
 「震災と大学教育」のテーマとならんで、わたしの関心を引いたのは阿部和厚教授(北海道大学・北海道医療大学)の発表『学生主体授業「メディカルカフェをつくる」』である。
 これは、阿部教授が授業を担当する2大学の医療系学生1・2年生たちが、街中の大型書店ロビーを借りて医療をテーマとするイベント(カフェ)を企画・開催することを通じ社会性(社会力)を身につけることを目的とする授業である。開催するイベントのテーマは、糖尿病、高血圧等の医療テーマであるが、学生たち自身が会場借り上げ交渉や運営、受講者募集のチラシ作製等の実際を体験することにより、医療者―患者、医療者―医療者、医療者―社会の各次元でのコミュニケーション能力を育成するうえで、大いに効果があったとのことである。学生はいろんなセクション(広報・会場設営等)ごとに活動するが、複数の担当教員の役割は数回の全体会を開催して進み具合の調整・確認をするだけで、あとは学生たちが進める。各イベントテーマに適任の専門家(講師)を依頼することも学生が行う。
 この授業実践例を聞いていて、医療という一般市民の関心があるようなテーマでのカフェ運営という点に、成功の秘訣があるのかなあと思ったが、それ以上にすごいなあと感心したのは、阿部教授がこのような学生主体型授業の実践を他にも長年実施してきたことである。もちろんだれもができるわけではないが、大変参考になった実践報告であった。