SPODフォーラム2012に参加して

(大学教育センター 坂井 敬子)
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 SPODフォーラムは,四国地区の高等教育機関による,教職員の能力開発のための講習やシンポジウムが催される年1回の企画である。このフォーラムは,加盟校以外にも開かれ,全国から多くの参加者が訪れる。私は今回,9つの講習及びシンポジウムに参加した。以下の報告では,フォーラムで得られた成果について,「アクティブ・ラーニング」,「授業計画」,「部署間協働」の3つの観点からまとめたい。

 まず,「アクティブ・ラーニング」については,目的ではなく手段であると認識すべきである。全体シンポ「アクティブ・ラーニングを通して,いかに学生に深い学びをもたらすか」では,京都大学の溝上慎一氏がアクティブ・ラーニングを「授業者からの一方向的な知識伝達型授業(学習者の受動的な学習)から,学習者の能動的な学習を取り込んだ授業への転換を目指す最広義の教育政策用語」と定義した。この定義では,授業に関するコメントペーパーもアクティブ・ラーニングに含まれる。他の学生や教員との相互作用は生じないが(溝上氏はこのような形態のものを“静かなアクティブ・ラーニング”と呼ぶ),講義内容が咀嚼され,さらには,次回以降の教員からのフィードバックにより理解が促進されるだろう。もちろん他には,何らかの共同学習やPBL(Problem-Based Learning / Project Based Learning)といった形態があるが,そこでも学生が学ぶべきことを学べているのか,吟味される必要がある。
 このSPODフォーラム全体としても,多くの講習の中でアクティブ・ラーニングが取り入れられていた。多くの講習では,受講席は予め5人程度のまとまりに分けられていた。開始前に名刺交換が促され,開始後は個人ワークやグループワーク(課題自体は易しい),情報・意見交換が盛り込まれた。このような形式の利点は,学習内容を記憶しやすくなるということ,講師からの情報に加えて,他者と考えをやりとりすることによって深い理解や洞察が得られるということにあるだろう。80名を超える大人数講習でも,90分中10分弱の情報交換が2セット行われた。講習内容が様々なエピソードと共に記憶され,情報交換では自分自身を振り返ることができ,効果を実感することができた。
 次に,「授業計画」については,学生の学習を促す仕掛けを教員が学期前から計画すべきである。愛媛大学の佐藤浩章氏による「グラフィック・シラバスの作成方法」では,グラフィック・シラバスのポイントが示され,参加者それぞれがその作成を試みた。15回の授業計画が図で表わされることで,学習内容が構造化され,学習効果を高めるという。実際に,他大学で他分野の教員から,とある概論15回分を図にして説明してもらったが,知識構造が体系化されて学生にとってもイメージが湧きやすかろうという印象を持った。
 授業計画では,成績評価もその対象になる。徳島大学の川野卓二氏による「学習評価の基本」では,授業の目的・目標と評価が一貫していることの重要性,期中に行う形成的評価の重要性,測りやすいものではなく測るべきものを評価材料として選択することの重要性が説かれた。評価がしかるべき内容と手続きで行われることがわかれば,学生はより能動的に授業に参加するだろう。また,高知大学の俣野秀典氏による「ルーブリック評価入門」では,ルーブリックの作成ポイントについて説明がなされた。ルーブリックとは,学生が何を学習するのかを示す評価の対象とその基準を具体的に示すものであり,予め学生に配布されることで評価の明確さと公平さを担保できるというものである。成績あるいは自分の能力に敏感な学生にとって,このようなツールは画期的だろう。だが,ルーブリックのデメリットは,学生の注意や行動が示されたものだけに向かいがちということである。対策を考慮する必要がある。
 最後に,「部署間協働」については,縦割り的な「自分(たち)の仕事は○○だけ・まで」という意識を取り払うことの重要性である。教職協働の参考にならないかと参加した,愛媛大学の秦敬治氏による「これからの職員に求められる教育力養成講座」では,学生を教育するのは教員とは限らない,職員もそうである,ということが前提となっていた。その前提の上,学生に対する教育力を高めるために,自分(職員)が社会人として学生の見本になっていることを認識すべきことが説かれた。この認識を支えるのは,定められた業務の枠を超えた「大学をよくしたい」という一人ひとりのマインドではないだろうか。もちろん教員も例外ではない。そのマインドが,ひいては部署間協働の原動力や潤滑油になるのではないかと考える。