教員と職員の協働授業による文献検索能力の定着の分析

教員と職員の協働授業による文献検索能力の定着の分析-質問紙調査の結果より-

図書館情報課レファレンス係
渡邊 貴子

はじめに
これまで3回にわたって全学教育科目「教育の原理」「特別活動論」の講義において、教員と図書館職員が協力して授業を行った。具体的には、平成24年10月29日「教育と原理」、平成25年4月25日「特別活動論」、平成25年5月13日「教育の原理」である。教員と図書館職員が協力した授業を協働授業と称し、実際に2人で行った授業を「論文・新聞検索実習」とした。1回目の協働授業の詳細と結果は、「学生の文献検索能力の現状報告」(web「静岡大学大学教育センターニュースレター」2012年12月4日掲載)と「教員と職員の専門性をいかした協働の試み-教職科目における協働授業の実践」(『静岡大学教育研究9号』2013年3月)で報告したので、そちらをご参照いただきたい。

1回目の協働授業後、「文献検索能力の定着の確認」「協働授業の効果の検証」「附属図書館で文献検索能力をつけるために行われているセミナー等の見直し」が課題として残った。それらの課題を解決するために、今回は「文献検索能力の定着の確認」について質問紙調査による結果を報告する。

昨年度まで実施してきた協働授業の受講生の多くは2年生であった。今回対象となる「特別活動論」の受講生の多くは3年生である。そこで、2年次に協働授業で「論文・新聞検索実習」を受講した学生の文献検索能力の定着を検証するために「教育の原理」の受講生の半数以上が受講する「特別活動論」において、質問紙調査を行うことにした。「特別活動論」の受講生の半数は「教育の原理」の受講生ではないため、2年次の文献検索方法や能力について、すでに協働授業を受講した半数の受講生との比較が可能になる。協働授業を受講していない学生は、文献検索方法を身につけていないことが推測されるため「論文・新聞検索実習」を行う必要があり、主に協働授業を受講していない学生を対象にふたたび2013年4月25日に「特別活動論」の講義の中で松尾由希子先生と2回目の協働授業を行った。

1.調査の方法
協働授業を行う前の2013年4月11日(協働授業前)に「特別活動論」の授業の冒頭で受講生に対して「文献検索に関するアンケート」を実施した。質問紙の内容は、記名式(質問紙調査を2回行うため、再配布を必要とする)とし、以下の質問項目で調査を行った。
質問紙項目
・学年、学部などの学生の属性
・図書と雑誌の区別の有無
・自身ができる文献検索について
・文献検索はどの授業で習い、身につけたか
・「平成24年度後期の教育の原理」の受講の有無
・その受講生に対して、文献検索の方法を覚えていて、実際に検索できるか
・実際にレポートを作成する際に、スムーズに文献を検索し、必要な情報を入手することができたか
これらの質問項目の回答を2013年4月11日に実施し、一度回収した。2013年4月25日の「論文・新聞検索実習」当日(協働授業後)に再配布し、以下の項目で質問紙調査を行った。
・実際に文献を探すことができたか
・図書館への希望等を自由記述
  協働授業、「論文・新聞検索実習」は、2013年4月25日の「特別活動論」の授業で行った。教員は、この日の1週間前の授業時にワークシートを配布した。内容は、論文の出典、論文を整理(授業内容や授業目標、授業の評価など)するためのものである。当日までに学生は、ある程度調べたいテーマを書き込んでいた。そのうえで「論文・新聞検索実習」を行い、当日中にワークシートを回収し、教員と図書館職員が検索した文献、出典の書き方等の内容を確認した。さらに、ワークシートをふまえて作成する2013年5月23日提出期限のレポートで、最終的に確認をした。
114名に質問紙調査紙を配布し、99名から有効回答を得られた。質問紙調査の集計結果を以下に示す。

表1は、回答者を学年別に数えたものである。3年生が93名、4年生が5名、修士1年生が1名である。3年生が中心に受けている授業である。

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表2は、「平成24年度後期の教育の原理を受講しましたか」の問いに対する回答である。はいと答えた人が45名、いいえと答えた人が52名、未回答が2名だった。結果から「平成24年度後期の教育の原理」受講生は3年生93名のうち44名、4年生5名のうち1名、計45名いた。

浮Q

表3は、回答者を学部別に数えたものである。人文社会科学部が22名、理学部が76名、理学研究科が1名である。

浮R

表4は、「図書、雑誌、論文の違いはわかりますか」の問いに対する回答である。はいと答えた人が80名、いいえと答えた人が19名だった。このうち「平成24年度後期教育の原理」受講生は、はいと答えた80名のうち41名、いいえと答えた19名のうち2名、未回答が3名だった。このことから「平成24年度後期教育の原理」受講生の91%は、図書、雑誌。論文について理解していることがわかる。「論文・新聞検索実習」において、図書、雑誌、論文の説明をしていたため、知識として定着しているのだろう。

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「いいえ」と答えた人の理由の多くは、「ほとんど利用せず、見たことがない」「図書と論文の違いがいまいちわからない。論文に触れたことがないので、具体的にどういうものかわからない」「論文をみたことがない」「雑誌をどういったものをさすのかよくわからない」等だった。
表5は、「文献検索はできますか、ご自身が検索できるものについて教えてください」の問いに対する回答である。図書を検索できる人が71名、雑誌を検索できる人が25名、論文を検索できる人が44名だった。このうち「平成24年度後期教育の原理」受講生は、図書を検索できる人が35名、雑誌を検索できる人が15名、論文を検索できる人が35名いた。「平成24年度後期教育の原理」の受講生の80%弱の人は「図書検索ができる」「論文検索ができる」と回答している。

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表6は、「文献検索はどの授業で習い、身につけましたか」の問いに対する回答(複数回答可)である。(「学生の文献検索能力の現状報告」)で「(新入生)セミナーアドバンス編がうまく機能していないのではないか、と抱いていた懸念が実感に変わった」と書いたが、それを裏付ける結果となった。図書館での指導についても同様である。しかしながら「平成24年度後期教育の原理」受講生の80%が本授業で文献検索方法が身についたと答えている。

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表7は、「平成24年度後期の教育の原理」受講生に「文献の検索方法を覚えていて、実際に検索できると思いますか」の問いに対する回答である。はいと答えた人が34名、わからない(覚えていない)と答えた人が8名、いいえと答えた人が3名だった。つまり、「論文・新聞検索実習」(特別活動論)において、76%の受講生は「できる」と答えている。

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「いいえ」と答えた人の理由は、「たまにしか利用しないため、やり方を忘れてしまう」「『教育の原理』で配られたプリントを見なおせばできる」等であった。これらの記述からも継続して繰り返し検索を行わないとスキルの定着が難しいことを示している。また、「教員と職員の専門性をいかした協働の試み-教職科目における協働授業の実践」で、「論文・新聞検索実習」の際に使用したパワーポイント資料は、「図書館特有の言葉を使わず、できるだけわかりやすい言葉で作成した。その資料を配布し、後日再び自分自身で検索できるようにした」と書いたが、こちらの意図通りの効果があったことがわかった。

表8は、平成24年度後期の「教育の原理」「論文・新聞検索実習」において「実際にレポートを作成する際、スムーズに文献を検索し、必要な情報を入手することができましたか」の問いに対する回答である。

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「いいえ」と答えた人の理由は、「文献があまり見つからない」「適切なキーワードを見つけるのが苦手なため」等であった。

表9は、「平成25年度前期特別活動論」のなかで実施した「論文・新聞検索実習」において「実際に文献を探すことができましたか」の問いに対する回答である。このうち「平成24年度の教育の原理」受講生で「はい」と答えた人は39名、「いいえ」と答えた人が2名、未回答が4名だった。表7の説明でも書いたように実習前でも「平成24年度の教育の原理」受講生のうち「論文検索できる」と答えた人は76%で、「わからない(覚えていない)」「できない」と答えた学生が24%いた。しかし実習後の調査によると86%の学生が実際に文献を検索できたと回答しており、実習前には「わからない(覚えていない)」「できない」と回答した受講生もいたが、実際にやってみると検索できた学生もいた。

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「いいえ」と答えた人の理由は、「CiNiiで見ることのできる論文が少なく、静大での検索の仕方もよくわからない」「調べようとした内容のレポートがなかった」「静岡大学になかった」等であった。(「学生の文献検索能力の現状報告」)に「例えば、CiNii Articles等を検索し、すぐにPDFファイルで論文を見られないとその論文は見られないものと誤解している」と述べたが、説明をしても、理解していない学生もいた。
 以下は「論文・新聞検索実習」の授業について、「平成24年度後期教育の原理」受講生が記述したものの一部である。「わかりやすかった」「とてもわかりやすい説明だったことと、教わってすぐに自分で調べてみて、方法を覚えられたのですごくためになった」等、同じような感想が複数あった。「以前からなんとなく論文検索はやっていたけど、効率的に探せていなかった。今回の授業で効率的に自分の欲しい資料を探せてよかった」等あった。一方で「なかなか欲しい文献が見つからず、苦労した」、一人ではあるが、「わかりにくかった」という感想もあった。
また「iPadが配られていたので、説明されるだけよりわかりやすかった」「iPadを使えてよかった」協働授業における「論文・新聞検索実習」では、机のレイアウトや場所に左右されないiPadの使用は効果的であった。しかし、2,3人に1台しかいきわたらなかったため、作業効率を考えると、今後は1人に1台いきわたるよう改善されることが望まれる。

4.終わりに
この報告は文献検索能力定着の確認を目的として行った。その結果、平成24年度後期に行った協働授業(教育の原理)の受講生の文献検索能力の定着が確認できた。質問紙調査の結果によると、「平成24年度後期教育の原理」受講生の86%が「文献を探すことができた」と答えている。ワークシートやレポートを確認した結果からも問題なく検索ができていた。3回の「論文・新聞検索実習」を通して、おそらく文献検索方法は1回目の「論文・新聞検索実習」でマスターしているもの思われる。教員からレポート課題が出され、動機づけされ、それによって「文献を探さなければならない」状況になり、レポートを提出するまでに教員から指導を受け、その結果、繰り返し文献検索を行い、学習したことで定着したものと考えられる。今までの質問紙調査、協働授業の結果から、教員からレポートの書き方について説明を受け、レポート課題が出され、各自がテーマを決めた。その後、検索方法について説明を受け、レポート作成に取り組む。一貫したこの一連の流れの中で、文献検索スキルは定着するのだろう。表6の通り、図書館で開催している新入生セミナーアドバンス編や図書館で質問した場合「身につかなかったもの」としてあがっているが、これはレポート課題提出と結びついてないという点で動機づけが弱く、一連の流れで繰り返し学習していないため、身につかなかったのではないかと推測される。「平成24年度後期教育の原理」受講生は、文献検索能力を維持できていた。これは半年未満という比較的短い時間の中で、動機づけや繰り返しの学習によりほぼ定着したものと考えられる。
一方「教育の原理」を受講していない学生の78%も「文献を検索できた」と答えている。ワークシートやレポートを確認した結果、検索については問題なくできていたが、出典の書き方については、「平成24年度後期教育の原理」受講生と比較して、誤りが多く見受けられた。その理由は、ワークシートやレポート作成の経験数の違いによるものと推測する。「平成24年度後期教育の原理」の受講生はすでにワークシートでの実習、レポート提出を経験している。しかも教員からレポートについて評価され、指導を受けている。それらの経験が反映されたのだろう。
平成24年度に試行で始めた協働授業であるが、平成25年度も松尾由希子先生とすでに2回の協働授業を行った。今後の課題は、2点ある。1つは検索能力の定着の条件を探ることである。複数年にわたって協働授業や質問紙調査等で学生の様子を確認していきたい。2つは、協働授業の継続である。松尾由希子先生も「静岡大学大学教育センターニュースレター」(「教員からみる附属図書館職員との協働授業の意義」2013年7月1日掲載)の中で課題としてあげている。今後はこの協働授業を継続するための検討が必要であろう。これを拡充し、継続させるには、運用面、日常業務等の見直しが必要だ。さらに教員の協力が必須である。
今年度の後期にも4回目の協働授業を計画している。今後の協働授業でも質問紙調査などを行い、「協働授業の検証」や「附属図書館で行われているセミナー等の見直し」についても、いずれ何かの形でまとめたい。