【渡邊 貴子・図書館情報課】教員と図書館職員による協働授業の効果の検証 -「教育の原理」と「特別活動論」を受講した学生の質問紙調査より-

員と図書館職員による協働授業(試行)の効果の検証
-「教育の原理」と「特別活動論」を受講した学生の質問紙調査より-
図書館情報課レファレンス係
渡邊 貴子
はじめに
 これまで6回にわたって全学教育科目「教育の原理」「特別活動論」の講義において、教員と図書館職員による協働授業を行った。協働授業(以下協働授業)とは、本学で行った教員と図書館職員がそれぞれの専門性をいかして、協力して実施した授業である。そして協働授業のなかで実施した実習を論文・新聞検索実習(以下論文・新聞検索実習)と称した。協働授業の詳細と質問紙調査の結果等は、「学生の文献検索能力の現状報告」(web「静岡大学大学教育センターニュースレター」2012年12月4日掲載)と「教員と職員の専門性をいかした協働の試み-教職科目における協働授業の実践」(『静岡大学教育研究9号』2013年3月)、「学生の文献検索能力の定着の分析」(web「静岡大学大学教育センターニュースレター」2013年10月1日掲載)、「教員と図書館職員により協働授業(試行)から得られたこと-4回目の実施を終えて」(web「静岡大学大学教育センターニュースレター」2014年2月21日掲載)で報告したので、そちらもご参照いただきたい。
 平成24年度に試行で始めた協働授業であるが、平成26年6月現在で7回実施した。平成26年度より図書館側は、渡邊のほかに森部(5月担当)と青池(10月担当)の2名が立候補し、担当することになった。新たに担当した職員(森部圭亮)が「教員と図書館職員による協働授業(試行)の活動報告」 (web「静岡大学大学教育センターニュースレター」2014年6月9日掲載)を書いているので、ご参照いただきたい。
 昨年度に引き続き、「平成25年度教育の原理」を受講し、「平成26年度特別活動論」を受講する学生に質問紙調査を行った。「平成26年度特別活動論」の受講生が「平成25年度特別活動論」の受講生と異なる点は、94%の受講生が、「教育の原理」と「特別活動論」の両方を受講した学生であることだ。つまり、ほとんどの学生が2度の協働授業を経験することになった。これまでは、「特別活動論」のみで協働授業を経験する学生が半数から多数であった。これらの学生について、「協働授業による文献検索能力の定着の分析」、「協働授業から得られたこと」を報告している。今回は2度の協働授業を受けることの効果について、質問紙調査によって検証した。
1.調査の方法
 協働授業を行う前の2014年4月10日(協働授業前)に、「特別活動論」の授業の冒頭で受講生に対して「文献検索に関するアンケート」を実施した。質問紙の内容は、記名式(質問紙調査を2回行うため、再配布を必要とする)とし、以下の質問項目で調査を行った。
質問紙項目
・学年、学部などの学生の属性
・図書と雑誌の区別の有無
・自身ができる文献検索について
・文献検索はどの授業で習い、身につけたか
・「平成25年度教育の原理」の受講の有無
・その受講生に対して、文献検索の方法を覚えていて、実際に検索できるか
・実際にレポートを作成する際に、スムーズに文献を検索し、必要な情報を入手することができたか
これらの質問項目の調査を2014年4月10日に実施し、一度回収した。その後、2014年4月24日(人文社会科学部)と2014年5月1日(理学部)の「論文・新聞検索実習」当日に再配布し、以下の項目で質問紙調査を行った。
・実際に文献を探すことができたか
・「平成25年度教育の原理」受講生に対しては、「教育の原理」での「論文・新聞検索実習」の感想について
・図書館への希望等を自由記述
 「論文・新聞検索実習」は、2014年4月24日(人文社会科学部)と2014年5月1日(理学部)の「特別活動論」の授業で行った。教員は、これらの日程の1週間前の授業時にワークシート(作業1)を配布した。内容は、論文の出典、論文を整理するための項目で構成されている。実習当日までに学生は、ワークシートに調べたいテーマを書き込んでいた。そのうえで「論文・新聞検索実習」を行った。当日中にワークシートを回収し、教員が、ワークシートに記された論文の内容や出典の書き方等の内容を確認した。教員は、2度のワークシートおよびそれにもとづいたレジュメの作成を課題としている。そのため、教員は、この1回目のワークシート(作業1)の他に、2014年5月22日提出期限のレジュメ(作業1)と2014年7月3日提出期限のレジュメ(作業2)、ワークシート(作業2)の確認をした。
120名に質問紙調査紙を配布し、80名から有効回答を得られた。質問紙調査の集計結果を以下に示す。
表1は、回答者を学年別に数えたものである。3年生が79名、4年生が1名だった。
図書1
表2は、「平成25年度教育の原理を受講しましたか」の問いに対する回答である。はいと答えた人が75名、いいえと答えた人が4名、未回答が1名だった。94%の受講生が「教育の原理」を受講していた。
図書2
表3は、回答者を学部別に数えたものである。人文社会科学部が13名、理学部が67名である。
図書3
表4は、「図書、雑誌、論文の違いはわかりますか」の問いに対する回答である。はいと答えた人が69名、いいえと答えた人が11名だった。このうち「平成25年度教育の原理」受講生は、はいと答えた64名、いいえと答えた11名だった。「平成25年度教育の原理」受講生の86%が「図書、雑誌、論文の違いがわかる」と回答している。
図書4
「いいえ」と答えた人の理由の多くは、「イメージではわかるが、具体的にそれぞれの違いを言葉で説明できないから」「図書が何なのかわからない」「図書と論文にあまりふれたことがない」「雑誌はどういったものをさすのかよくわからない」等だった。
表5は、「文献検索はできますか、ご自身が検索できるものについて教えてください」の問いに対する回答である。図書を検索できる人が60名、雑誌を検索できる人が28名、論文を検索できる人が64名だった。このうち「平成25年度教育の原理」受講生は、図書を検索できる人が56名、雑誌を検索できる人が25名、論文を検索できる人が64名いた。「平成25年度教育の原理」の受講生の93%の人が「図書検索ができる」、100%が「論文検索ができる」と回答している。
図書5
表6は、「文献検索はどの授業で習い、身につけましたか」の問いに対する回答(複数回答可)である。「平成25年度教育の原理」受講生の87%が本授業で文献検索方法が身についたと答えている。
図書6
表7は、「平成25年度教育の原理」受講生に「文献の検索方法を覚えていて、実際に検索できると思いますか」の問いに対する回答である。はいと答えた人が52名、わからない(覚えていない)と答えた人が21名、いいえと答えた人が2名だった。「論文・新聞検索実習」(特別活動論)において、69%の受講生は「できる」と答えているが、昨年度より「はい」と解答した人が少なく、「わからない(覚えていない)」と答えた人が多かった。
図書7
「いいえ」の中には、「『教育の原理』で配られたプリントを見なおせばできる」等の回答があった。プリントを見れば、検索ができるというものである。説明で使った資料を配布し、この資料を見れば、自分自身で検索ができるようにしている。昨年度も同じ回答があり、こちらが意図したように資料を活用してくれているようだ。
表8は、「平成25年度教育の原理・論文・新聞検索実習」において、「実際にレポートを作成する際、スムーズに文献を検索し、必要な情報を入手することができましたか」の問いに対する回答である。
図書8
「いいえ」と答えた人の理由は、「該当する論文が見つからなかった」「論文が少なかった」であった。
表9は、「平成26年度特別活動論」のなかで実施した「論文・新聞検索実習」において「実際に文献を探すことができましたか」の問いに対する回答である。このうち「平成25年度教育の原理」受講生で「はい」と答えた人は71名、「いいえ」と答えた人が4名、未回答が5名だった。表7の説明でも書いたように実習前は「平成25年度教育の原理」受講生のうち「論文検索ができる」と答えた人は69%で、「わからない(覚えていない)」「できない」と答えた学生が28%いた。しかし実習後の調査によると90%の学生が実際に文献を検索できたと回答しており、実習前には「わからない(覚えていない)」「できない」と回答した受講生もいたが、実際にやってみるとほとんどの学生が検索できていたようだ。
図書9
「いいえ」と答えた人の理由は、「探している文献が見つからなかった」「欲しい文献があまりなかった」「回線の問題で通信が遅かった」等であった。
 以下は「論文・新聞検索実習」の授業について、「平成25年度教育の原理」受講生が記述したもので主なものを記す。1つは、この授業で検索が身についたというものである。例えば「この授業によって検索できるようになった」、「去年聞いたことを忘れずに今日実践できていたのでよかった、しっかり身についていた」、「『教育の原理』のレポートのときよりもとてもスムーズにより適切な文献を見つけることができた」、「少し忘れてしまっていたこともあったが、改めて授業でやることで思い出せた」、「『教育の原理』で論文検索の勝手がわかっていたので、前よりもスムーズに検索できた」、「授業を通して検索についてはかなり不自由なくできるようになった」等である。2つは、協働授業における検索に関する感想である。例えば「文献検索には時間がかかると感じた」、「いろいろな言葉をあてはめてもなかなかいい文献が見つからなかった」、「テーマにあった論文を見つけるのが難しい」、「取寄せる必要がある論文について、もう少し詳しく教えて欲しかった」、「実際に探してみることで、自分で検索する技術が身についたのでよかった」、「その場で見られる論文が少ないと思った」、「授業外でやるより、集中して行えるのでよかった」、「読めないものがほとんどなので、探すのが大変」、「文献を探すと他の文献も見る機会が得られて参考になると思った」、「今思うと、1回目(教育の原理)はかなり手間どった印象があった」等だった。3つは、ネットワーク環境に関するものである。例えば「インターネットのつながりが悪く、遅かったところが不満だった」等、同じような感想が複数あった。無線LANの環境が十分でないため、「アクセスが集中して、スムーズに検索できなかった」という指摘も多かった。多人数でも実習を行うためには、ネットワーク環境の改善が望まれる。
4.おわりに
 文献検索技術の定着は、これまでの協働授業の結果、「『レポートを作成し、提出する』という目的をもった文献検索技術の習得が、学生の理解の定着に大きく影響していると考えられる」と結論づけた。文献検索は何らかの目的をもった文脈の中で学ぶことが必要であり、文献検索技術の定着には、繰り返しの学習が必要であると考えた。
 今回は、主に2年次・3年次で2度の協働授業を経験した学生を対象に、協働授業の効果について検証した。質問紙調査の結果から、最終的には「平成25年度教育の原理」および「平成26年度特別活動論」の両方を受講した受講生の90%が「文献を探すことができた」と答えている。ワークシートを確認した結果からも問題なく検索ができていた。「学生の文献検索能力の定着の分析」(web「静岡大学大学教育センターニュースレター」2013年10月1日掲載)で「おそらく文献検索の方法は1回目の『論文・新聞検索実習』でマスターしているもの思われる」と書いたが、それが裏付けられた。
 2014年4月24日の「特別活動論」(人文社会科学部所属の学生が対象)の「論文・新聞検索実習」では、「平成25年度教育の原理」の協働授業の内容に追加して、キーワードの説明をより詳しく行った。しかし学生はすでにそれらの内容を十分に理解したため、「さらに学生が必要とする文献検索技術とは何か」について知る必要にせまられた。そこで、昨年度に松尾由希子先生が任意で行った質問紙調査の検索に関する質問部分を参考にし、学生が求める必要な情報を的確に探すために、類義語の検索、論理演算子を使った検索、参考・引用文献からの文献調査を説明することが必要と判断した。そして、2014年5月1日の「特別活動論」(理学部所属の学生が対象)では、それらの情報を掲載した配布資料を作成し、資料配布後にポイントだけを説明した後、学生は論文検索実習を行った。2014年4月24日の「特別活動論」(人文社会科学部所属の学生が対象)の受講生にも資料のみ配布した。その説明の意図は、学生側に伝わっており、質問紙調査の自由記述に「少しくどいくらいだけれど、わかりやすかった。今回のものはピンポイントに説明していただき、わかりやすかった。さらにためになった」等、同様の回答が複数あった。
 これまでの協働授業の経験を通して、協働授業の効果と考える2点を以下にまとめる。一つは、学生は一度要領をつかめば、その後の検索は、スムーズにできるということである。インターネットの検索に慣れている学生にとって文献検索技術の習得自体は難しいものではない。しかし、学生は、自身が必要としている情報を探すことが難しいのである。質問紙調査の結果からも多くの学生がこのことに苦慮していることがわかっている。その主な理由は、文献検索するときに適切なキーワードを選択できないからである。言葉を入れれば検索はできるが、それは必要としている情報が見つかることと必ずしもイコールではない。検索のポイントは、「検索するときにどういう言葉を選択するか?」である。検索のポイントは、協働授業の中でも簡単に説明している。それで事足りるような単純な内容であれば問題はないのだが、より専門的かつ複雑な内容を探す場合は、ある程度の専門知識とそれにくわえて言語センス、さらによりテクニカルな検索の知識と技術が必要になる。求める内容が複雑になればなるほど、容易に検索できなくなり、難しさが増すものと推測される。このことは、質問紙調査の学生の自由記述にあった「文献検索には時間がかかる」という感想に裏付けられるのではないか。協働授業を受講した学生は「必要としている情報を入手することは、容易ではないこと」を経験し、認識する。その間、教員や図書館職員の指導やフォローを受けながら、繰り返し検索していくうちに、文献検索技術を習得する。そして時間をかけてようやく探し求める必要な情報にたどりつけるようになっていく。これは、スポットで検索方法を教えたところで、理解できるものではない。協働授業では、レポートやレジュメ作成までのプロセスを教員と図書館職員と学生、それぞれの立場で経験する。野末俊比古「情報リテラシー教育の「これまで」と「これから」~図書館におけるいくつかの論点~」(『情報の科学と技術』2014年1月)で、
「情報の探索・収集(input)だけでなく、整理・分析(throughput)、表現・発信(output)までの一連のプロセスを視野に入れた教育をどうデザインするか、ということが図書館には求められているのである」
とある。協働授業では、教員と協働することで、このことが実現されている。 
 教員と図書館職員は、お互いに協力し合って、仕事をするから協働なのである。教員と協働していれば、学生に対して専門分野に関することへの対応もできる。教員も図書館職員もそれぞれがわからないこと等はお互いに相談ができ、確認ができる。教員と図書館職員が学生に対して、専門分野をすみわけ、細やかに対応できるという最大のメリットがある。これは、協働授業の効果であろう。二つは、図書館職員が文献検索技術習得の目的の違いを理解し、意識することである。協働授業を経験するまでの私は、文献検索について教えるときに「学生に文献検索をわかりやすく教えて、理解してもらうこと」が目的だったと思う。少なくとも意識はそうであった。教える立場で、自身を主語にした場合は、恐らく多くの図書館職員の目的や意識がそうではないか。しかし教わる学生を主語にした場合、学生にとって文献検索技術習得の主な目的は、レポートや論文の作成である。そのことを理解し認識してはいたものの、特に意識して深く考えたことはなかったが、協働授業を経験して改めて理解し、意識するようになった。学生が文献検索技術を習得できても、レポートや論文作成でその力を発揮できなければ、意味がない。協働授業を経験するまで学生が作成したレポート等の作成物を見ることはなかったが、文献検索を教える最終目的の一つは、学生がレポートや論文等を作成することにある。教える立場の図書館職員の目的や意識もここにある必要を感じている。私は協働授業で学生が書いたレポートやレジュメ等の完成物を見て、「平成26年度特別活動論」の中での発表会も見学に出かけた。それが私自身の「文献検索を教える」モチベーションになり、文献検索を教えたある種の結果にもなった。特に学生の発表を見学することで「学生がどういう論文を必要とし、求めているのか」ということも理解できるようになった。これは、文献検索を教える側にとって重要な情報である。協働授業を経験しなければ、気がつけなかっただろう。
 検索システムの進化で、全文検索が可能になり、検索キーワードを入れると多くの情報が出てくる。CiNii Articlesでも一般紙に掲載された情報までも出てくるようになってしまった。これは、学術雑誌か一般誌かの判断が必要になることを意味する。もれのない検索ができるので便利な一方、必要な情報を判断し、取捨選択し、分析する力が必要になる。インターネットの検索でも同様である。今まで実施した質問紙調査で、図書と雑誌の区別ができない学生がいることがわかっている。毎調査ごとに受講生全体の15~20%の学生が該当する。協働授業を実施していく中で、ワークシートの確認により学術雑誌か一般誌かの区別ができない学生もいることがわかった。学術雑誌と一般誌の違いについては、質問紙調査をしていないため、数字がわからないが、ワークシートを確認した感触でいうと、協働授業を実施するごとに15~20%弱の学生が該当していると思われる。松尾由希子先生は、一般誌を参考・引用文献にすることを認めていないので、その後、渡邊が検索式を作り、CiNii Articlesを検索して一般誌のタイトルを抜き出しリストを作成した。完璧なリストではないが、平成25年度の協働授業から学生にこの一般誌のリストを配布し、一般誌は参考・引用文献にしないよう注意をしている。一般誌のリストを配布してからは、一般誌を引用・参考にする学生は少なくなってきた。質問紙調査からはわからなかったことがわかったことも協働授業の効果だろう。
 報告した以外にも協働授業による効果等は、当初の予想を超えて多くもたらされた。実施していく中で期せずして効果的だったこと等、発見があった。いずれ、これらのことも含めて、協働授業に関する最終的なまとめをし、報告したいと思っている。
平成26年9月24日 表6の数値を修正
平成27年10月6日 表9の説明文を修正