【上田 雅子・学務部教務課長】繋がって、繋げて

繋がって、繋げて

上田 雅子(学務部教務課長)

 学務系職員の「ありよう」について何か書くよう、仰せつかりました。
 朝日新聞の「天声人語」(電子版8/26)に、事業縮小する代々木ゼミナールの創業者の持論が、役者(有名講師)、小屋(鉄筋の教室)、出し物(授業の質)の三拍子を揃えることだったとありました。これを、大学に置き換えてみたとき、学務系職員の役割は何でしょう。
 みなさん、ご自身の学生の頃の「大学の事務の人」の記憶は、どのようなものですか。私の学生の頃(40年も前ですが)も、学務系の窓口は、学生に向かって開いていました。そして、能天気な学生だった私は、それが、大学の事務の人の全てだと思っていました。大学に、総務や人事や施設や会計等々の仕事をしている人達がいることを理解したのは、大学で働くようになってからでした。
 大学には、学生さんから見え易い仕事と見え難い仕事があるのですね。学務系の職員は、学生さんから見え易い仕事をしているのです。そういう意味では、大学の「顔」。けれど、その顔は、いつも「口角を上げて」「目元を柔らかくして」居られるわけでもありません。怖い顔で注意しなければならないこと、「だめ」と言わなくてはならないこと、学生さんの要望に応えきれないこともあります。そして、時には、「窓口対応がよろしくない」とアンケートに書かれたり。では、なぜ、「窓口対応がよろしくない」と言われてしまうのでしょう。
 学生対応の窓口では、大学の規則や規程に則って、「だめなものはだめ」と言わざるをえないこともあります。が、そこで、「だめ」の理由が相手の腑に落ちていないと、「対応がよろしくない」となりがちです。学生さんの要望に、制度的な制約、規程の縛り等々から、応えられないこともあります。そんなときは、「応えられないこと」を説明して理解してもらわなければなりません。併せて、なぜそのような制度や規程になっているのか、どのような制度や規程であったら応え得るのか、どうすれば応え得る制度や規程にできるのかを考えてみることも必要だと思います。
 また、「厄介だな」とか「面倒だな」とか思いながらの対応では、それが顔にも出て、対応も素っ気無くなってしまいがちです。「厄介だな」「面倒だな」と思うのは、どんなときでしょう。学生さんの質問の意図がわからない、対応すべき事柄の根拠規程やこれまでの対応事例などがよくわからない、急ぎの机上作業で焦っている、学生さんにどう対応したらよいのかわからない、というようなときでしょうか。
 ある人が、学生さんと直接対応する部署に配属されたとき、対応の基本(例えば、どんな事柄に、どんな規程に基づいて、どう対処し、どう説明するか)というようなものは、どのように伝えられているでしょう。規程などは紙面や電子的なファイルで伝えられるのでしょうが、どう説明するかといった対応の実際については、先輩や同僚をお手本(時には反面教師)として、各自が手探りで会得しているのではないでしょうか。
 平成24年度の「学生による評価」で「職員の窓口対応に対する改善」が挙げられました。
これに対処すべく、学務部では、昨年12月と今年7月に、「学務系職員の研修会」を開きました。グループディスカッションのまとめでは、「なぜ学生が窓口を嫌うのか、どんな対応が嫌われるのか、学生の思いを直接聞く必要がある」「共有ホルダーを用いて『全学的指針に基づいたマニュアル』を考える」などが語られました。研修会後のアンケートには、「同じような課題や悩みを持った人と話せてよかった」「担当業務毎でグループ化がされると良い」などの記載がありました。
 先程のお手本が少ないのでしょうか。学務系の人達は、孤独に仕事をしているようです。既に、例えば、学務情報システムの担当者が、当該システムの運用に必要な知識を共有するなど、個別の業務に特化した繋がりも、あるにはあるのですが、アンケートからは、「繋がりたい」という気持ちが見て取れました。一方で、ディスカッションからは、各人が「学生さんにとって最も好ましい窓口対応とは何か」を考えていることが、伝わってきました。各人の思いを繋げて考えると、何らかの解に近づけるかもしれません。解は、決してひとつではないと思います。が、今回のディスカッションの中に、何らかの解に近づく糸口があるように思えます。学務系職員の研修会は、繋がるきっかけを一つ作れたのかと思います。次は、この秋に行おうと考えています。
 これまでの大学は、「大学が発信したことは、全ての学生が一様に理解する」ものとして、仕事の枠組みを作ってきたのだと思います。けれど、今、「学生さんひとりひとりに自身のこととして理解される」という枠組みが必要になっています。言い換えれば、「伝える」から「伝わる」への転換。けれど、全ての対象者に確実に理解してもらうというのは、相当に骨の折れることです。
 今、大学には、正規生、非正規生、日本人学生、外国人留学生、社会人学生、長期履修学生、一般解放講座の受講生等々、様々な「学生さん」達がいます。それぞれに、思い(価値観、課題、大学に求めるもの等)は異なり、また、ひとりひとりの学生さんの思いも、気質も十人十色でしょう。自身の理解手法に合った方法でないと物事の把握がしづらいという傾向を持った学生さんもあります。そのひとりひとりに「伝わる」という仕事の枠組みは、どの程度整っているでしょう。今後、留学生や留学する日本人学生の増加が予想されます。既に、留学生の数が増えた大学では、「留学生さん」達の思いへの対処に苦慮したり、工夫したりしていると聴いています。学務系の仕事は、個々の学部、研究科、その大学の、考え方や方法に依存する事柄が多いのは確かです。けれど昨今は、単位互換、共同課程、ジョイントプログラム、ダブルディグリー、コンソーシアム等々、国内のみならず、海外の 大学との結びつきも増加し、独り、その学部や研究科のこと、その大学、その国の大学のことを見ているだけでは済まなくなってきています。そんなところから、今、大学の外でも、学務系の仕事をしている人達が、繋がろうとする動きが起きています。教学に関する知識を共有し、教育施策の動向やそれに伴う実務上の共通課題などを、共に考えようとするものです。Q&A集を編んだりもしています。これから、職能集団として、機能していくのではないかと思います。
 大学は、今、これまでとは違った局面に立っています。個々の学部や研究科としてではなく、「大学として」の「**」(例えば、構え、姿勢、枠組といったもの)を求められるようにもなってきています。学務系の仕事に於いても然りです。それに伴って、様々に、仕事の枠組みを変えていく必要もありましょう。限られた人員での新たな仕事の枠組み、効果的な仕事の手法を考える必要もありましょう。そんなとき、繋がって、繋げて、考えることが、重要になると思います。学部と学部、研究科と研究科、この大学と他の大学、大学の内と外、この国と他の国。何が同じで、何が違うのか。どういうところをどう整理すべきなのか。効果的な対応には何が必要なのか等々。これらを見定めることで、新しい仕事の枠組みや効果的な仕事の手法などの手がかりも見えるものと思います。きっと妙案も得られるものと思います。 
 繋がって、繋げて考えていきましょう。
 学務系の職員の仕事を、役割を。
 大学の「顔」として、「何をすべきか」を、そして「何ができるのか」を。