【青池 菜衣・図書館情報課レファレンス係】教員と図書館員による協働授業「論文・新聞検索実習」(試行)をおこなって

教員と図書館員による協働授業「論文・新聞検索実習」(試行)をおこなって

図書館情報課レファレンス係 青池 菜衣

【はじめに】
大学教育センター松尾由希子先生が担当なさっている全学共通科目「教育の原理」の1コマ(11月10日、受講生数約83名)でおこなった、「論文・新聞検索実習」(以下論文・新聞検索実習)について報告いたします。
この取り組みは、松尾先生と図書館情報課レファレンス係の渡邊が協働でおこなう授業「協働授業」(以下協働授業)として平成24年度よりはじめました。協働授業は教員と図書館員が互いの専門性を生かして論文と新聞記事の検索方法を教えることであり、その目的は学生の理解をより深めることにあります。この目的の詳細については渡邊の報告「学生の文献検索能力の現状報告-教職講義の受講生を対象に-」(Web「静岡大学大学教育センターニュースレター」2012年12月4日掲載)と「教員と職員の専門性をいかした協働の試み-教職科目における協働授業の実践」(『静岡大学教育研究9号』2013年、55~62頁)をご参照ください。図書館の業務としてはまだ試行段階ではありますが、今年度は渡邊に加え図書館情報課雑誌情報係の森部(「教育の原理」前期担当)と私(「教育の原理」後期担当)も立候補し、関わることになりました。
「教育の原理」で学生は、教育に関するテーマでレポートを提出します。そのために図書館員は、学生がレポート作成時に使用する論文・新聞記事を探すためのサポートを担当します。具体的には「教育の原理」の1コマで論文・新聞検索実習と名づけた授業をおこないます。論文・新聞検索実習の目的は、学生が論文・新聞記事の検索方法と論文・新聞記事情報の見方、書き方を理解し身につけるということです。最初の40分程度で論文・新聞記事の探し方や論文・新聞情報の書き方などについて説明をし、その後学生に論文と新聞記事を実際に検索してもらいます。検索の結果、レポート作成に使用することに決めた論文と新聞記事について、学生は松尾先生の用意したワークシート(以下、ワークシート(教員)と記す)にその情報を記入します。ワークシート(教員)は授業後に提出してもらい、図書館員は後日、正しく書けているかどうかの確認を先生とおこないます。私が担当した後期の「教育の原理」では、論文・新聞検索実習は11月10日におこない、11月11日と19日にワークシート(教員)を添削しました。

【資料作成と事前準備について】
授業で使用する資料は、その資料が学生のためのもので、学生の知りたいことをわかりやすく伝えられるように、意識して作成しました。特に、前期の担当者だった森部が作成した資料は視覚的に見やすく学生にも好評だったため、私も視覚的にわかりやすい資料を目指して作成しました。またレイアウトを考える際は「教育の原理」の授業にも少しお邪魔し、学生の雰囲気を見たうえで決めました。これは今回のように学生と事前に関わる場がないとできないことでした。授業の一環でおこなっているからこそ、その授業に参加している学生に合った資料を作ることができるのだと感じました。使用する言葉についても、初めて学ぶ学生にも馴染みやすい言葉を選ぶよう気をつけました。特に私も含め図書館員は、図書館員にしか伝わらないような言葉を使いがちだと感じていたので、この点は注意して作成しました。これは授業当日にも心がけた点です。また学生が初めて学ぶこと、今までまったく触れてこなかったことに関しては理解しやすいよう学生に身近な例を考えてつくりました。例えば学術雑誌と論文の関係については、小学校の卒業文集を例に説明しました。
「教育の原理」は大教室でおこなう、受講人数の多い授業です。大教室だとなかなか全員に目を配ることが難しいことから打ち合わせの際に先生と相談し、学生に発言させたり先生のものとは別のワークシート(以下、ワークシート(図書館員)と記す)を準備して手を動かしたりすることで、ただ聞くだけではなく考えさせながら授業を進めるかたちにしました。ワークシート(図書館員)では特に、目的の一つである論文・新聞記事情報の書き方については確実に身につくよう、例で出した論文について授業内で学生に情報を書かせ、その場で答え合わせをして自分の書いたものを添削させることにしました。また学生は情報過多になると必要な情報が頭に入ってこないと聞き、大事な点を簡潔に示すことを目指しました。

【授業をおこなって】
学生とのやり取りやワークシート(図書館員)を取り入れたことは、理解の助けになったと感じています。全てをもらさず聞こうと思っていても、集中力が切れてしまうことはあります。学生に考えさせるというのは、授業に参加していることを再認識させる(思い出させる)点でも必要なことでした。ただ先生から「授業は生もの」と言われたとおり、やってみないとわからないことも多くありました。学生とのやり取りは思った以上に時間がかかり、結果ハイペースで進まざるを得なくなりました。それでも10分くらいの時間オーバーになり、学生が検索をする時間が減ってしまいました。本来ワークシート(教員)は授業当日に提出することになっているのですが、当日提出できた学生は少なかったです。松尾先生には「当日に提出しなくても、次週正しく書けたものが提出できればよい」と仰っていただきましたが、この授業は前半の説明と後半の検索、合わせての授業です。検索時にも図書館員が関わることで、実際にデータベースを使ってみた上での疑問点をその場で解消できるというのも利点です。情報を厳選して後半の検索時間も確保しなければいけなかったと思いました。情報の厳選については、情報過多にならないようにという点をわかったうえで準備をしていたつもりでした。しかし私は、この機会に学生には有益な情報を少しでも多く知ってほしいと資料に色々と詰め込んでしまったようです。ただこの点に関しては、関連するほかの情報も知っておきたいと考える学生もいるため判断が難しいということも先生から伺いました。有益な情報も盛り込みつつ簡潔に伝える授業を考えることは来年度への課題の一つです。
また、大教室ということで後ろの席の学生ともやり取りをして気を配っていたつもりでしたが、後半の検索時間でクラスを回ったところ後方に座っていた学生からはすでに説明したことへの質問が多く、まだまだ配慮が足りなかったと感じました。どうしたら大教室の授業でより多くの学生の注意をひきつけられるか、こちらも来年度への課題です。

【ワークシート(教員)の結果と学生からのコメントを受けて】
11月11日と19日に、提出されたワークシート(教員)の添削をおこないました。結果は以下のとおりです。ワークシート(教員)は、論文の場合には著者名、論文名、雑誌名、雑誌の巻号数、ページ数を、新聞記事の場合には記者名、見出し、新聞名、記事の年月日を記入するように作られ、レポート提出の際に出典として必要になる情報です。ワークシート(教員)作成の目的は、著作権を尊重する態度を育てることと今後文献を入手する際に申請に必要とする項目を学ぶことです。

正解率は高かったです。やはり授業内で一度論文情報を書かせて添削させたことが正解率の高さ、理解の深さにつながったのではないかと考えています。また学生にも質問をふって授業をおこなったことで、学生も自分が参加しているのだという自覚を持って授業を受けられたのではないかと思います。
松尾先生の授業で提出するカルテ(授業の内容や考えたことを記入するもの)の考えたことの欄には「情報の選択がレポート作成の最初のステップだと思った」「これからレポートを作成するときは今日学習した検索方法を活用してより説得力のある文章を作成したいと思う」など、こちらが学生に獲得してほしかったことをしっかり身に付けていると思える感想もあり、安心しました。ただ確実に全てを自分のものにした学生もいれば、そうでない学生もいたようです。授業後も「教育の原理」を受講した学生が図書館のレファレンスカウンタに質問に来ているのですが、「論文を学外から取り寄せてほしい」という論文・新聞検索実習で学んだことを踏まえての質問がある一方、CiNii Articlesの基本的な使い方についてなどすでに論文・新聞検索実習で説明したことへの質問もありました。しかし、わからないことを図書館で聞くようになったというのは一歩前進です。論文・新聞検索実習は、学生が論文・新聞記事の検索方法と論文・新聞情報の見方、書き方を確実に身につけるということが一番の目的ですが、図書館というツールを学生に紹介できたことも収穫の一つです。カルテには「図書館のレファレンスを活用したい」「図書館でサポートしてくれるのは本当に心強い」「図書館をうまく活用しながらレポートを作成していきたい」という感想も見られました。この点に関しては、松尾先生も「教員からみる附属図書館職員との協働授業の意義」(Web「静岡大学大学教育センターニュースレター」2013年7月1日掲載)で図書館職員との協働授業の意義としてあげられており、また森部の報告「教員と図書館職員による協働授業(試行)の活動報告」(Web「静岡大学大学教育センターニュースレター」2014年6月9日掲載)にもありますが、図書館員が授業に参加することで、図書館や図書館員が学生にとって身近な存在になったことを実感しました。私も普段学生と深く関わっている先生にご指導いただくことで、学生の様子についても知ることができ、学生のニーズに添った資料を作成することができました。”大学”図書館員としての資料作成力も向上したように思います。また授業に参加することで、授業で教えるとはどういうことかも考えることができました。図書館では毎年、学生向けの図書館利用セミナーを実施していますが、来年度以降図書館でおこなうセミナーにもぜひ活かしていきたいと思っています。なお図書館利用セミナーについては渡邊が「学生の文献検索能力の現状報告-教職講義の受講生を対象に-」(Web「静岡大学大学教育センターニュースレター」2012年12月4日掲載)と「教員と職員の専門性をいかした協働の試み-教職科目における協働授業の実践」(『静岡大学教育研究9号』2013年、55~62頁)に協働授業を行った背景や今後の課題として報告しておりますのでご参照ください。

【おわりに】
協働授業で学生と関わりを持つことで、図書館の中にいるだけではわからなかった学生の生の声を聞くことができました。これは私にとって収穫でした。私の考えていた学生のイメージと、実際に関わってみる学生とは違いがありました。その大学に属している利用者のニーズに応えるのは大学図書館の重要な役割の一つです。今までも学生向けのセミナーを開いたりそのための宣伝を考えたり、学生にとって有益になる情報を発信しようと思ってきましたが、具体的な学生像を思い描いてサービスを提供できることは大きなメリットだと思います。もちろん今回出会った学生が全てではないですが、図書館員が継続して学生と関わる場を持つことが、これからのサービス提供、サービスを考えるうえで大切だと今回協働授業に関わって感じました。協働授業は来年度から図書館業務として正式実施となる予定です。学生との交流の場をなくさないためにも来年度以降もできる限り協働授業に関わっていきたいと思います。
最後に、松尾先生には時間に制限のある私でも受け入れてくださったこと、学生と関わる機会を提供していただいたこと、この場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました。