【森部圭亮・図書館情報課】教員と図書館職員による協働授業(試行)の活動報告
教員と図書館職員による協働授業(試行)の活動報告
森部圭亮(図書館情報課雑誌情報係)
はじめに
大学教育センターの松尾由希子先生が担当している全学教育科目「教育の原理」の1コマの「論文・新聞検索実習」で、松尾先生と協働授業を行った。この1コマの目的は2点である。1つは論文検索データベース「CiNii Articles」(以下CiNii)や新聞記事データベースを活用して、学生自身が定めたテーマに関する文献を探せるようになることである。もう1つは、書誌情報を参考文献として正しく書けるようになることである。ここでは、この協働授業の一連の流れと、その時々に気付いた協働授業の意義を報告する。
協働授業は、松尾先生と図書館情報課レファレンス係の渡邊によって平成24年度から開始した事業で、資料検索方法を学生に教える上で教員と図書館員が互いの知識を補いあい、より深く講義内容を理解してもらうことを目的として行われている。詳しくは渡邊の「教員と職員の専門性をいかした協働の試み-教職科目における協働授業の実践」 (『静岡大学教育研究』9号、2013年)を参照されたい。松尾先生と渡邊の協働授業は既に5回に上るが、毎回授業の前後にアンケートを取り、得られたフィードバックから資料や講義を何度も何度も再構築するなど、熱心で柔軟な体制で取り組まれている。この事業を図書館員の誰もが業務の一環として行えるよう、2014年1月に松尾先生と渡邊から図書館へ提案があり、試行という形ではあるが実施が決まった。私は前期の「教育の原理」に立候補し、2014年5月2日(金)の授業を担当することになった。
1.授業準備
授業に先立ち、まずは資料作成に着手した。資料は1ヶ月ほど時間をかけて入念に準備を行った。とにかく分かりやすい資料作りを心がけ、表・フローチャート・アイコンなどを多用し、色やフォントにも気をつかうことで見た目にも配慮した。完成したスライド資料は42枚になったが、一枚一枚に気を配り、学生が戸惑わずに検索ができるように工夫したつもりである。このように資料作りに注力したのは、渡邊から「授業後にも配布資料を参照して情報検索する学生も多い」と教えてもらい、何度も使ってもらえる可能性があるなら手抜きはできないと思ったからである。また、人は視覚からの情報量が五感の中で大半を占めているため、学生に理解してもらいたいなら、一にも二にも優れた資料を作ることが大切だという自分の持論に拠るものでもある。
資料がある程度できたら松尾先生の研究室に持ち込み、話し合いながら修正を重ねていった。私は、主な受講者である2年生の学生が学術論文や新聞記事の検索および参考文献の書き方等についてどれほど理解しているのか知らない部分が多く、資料の各項目の粒度をどうするか判断がつかない箇所があり、それを松尾先生にたびたび相談した。例えば、①論文は学術雑誌に収録されていて、②論文の出典を示すためには雑誌名およびその巻号やページ数などの情報が必須であり、③それらの情報はCiNiiの検索結果画面に記述がある。しかし、それをどの段階から説明すべきか定かでなかった。また、①の内容は学術雑誌に触れたことのない学生にとって抽象的な理解に留まりがちで、どう教えるとすっきり理解してもらえるか分からなかった。そういった学生の理解度や教えるコツは松尾先生との話し合いをとおして把握することができ、何をどこから教えれば良いのか、かなり明確になった。先ほどの例の場合、2年生でも論文についての理解はあやふやなことが分かり①から教えることを決め、講義では学生にとって馴染みのある週刊少年漫画雑誌を手に取りながら学術雑誌の類似性を引き合いに出して説明した。
また松尾先生からは、ただ資料に沿って説明するだけでなく、学生も積極的に巻き込んだ授業にするよう勧められた。例えば、インターネットを利用した資料収集のメリット・デメリットを学生に意見を述べさせたり、CiNiiの操作を壇上で実演してもらったりした。今回の講義は私の説明時間が40分で、あとの50分が実習の時間に充てられているため、当初そのような時間が必要なのか分からなかった。しかし実際にやってみると、学生はより主体的に、より集中して講義に参加してくれたように思う。図書館の新入生セミナーもH25年度より学生同士2人あるいは4人で話し合って資料検索をさせており、それももちろん重要だが、講義する側と受ける側とのやり取りも重要であることに改めて気づかされた。
2.授業当日
当日の講義は100人ほどの学生を前にしてすっかり緊張してしまい、時間をかけて説明すべき箇所をサッと流してしまうなど反省点が多かった。それにも関わらず学生は大変意欲的に実習に向き合ってくれて、多くの質問を投げかけてもらえた。主な質問内容はデータベースへのアクセスや操作方法、ワークシートへの参考文献の記述方法などだが、自分のテーマに即した論文が見つからないという質問も少なくない。その場合、私がアドバイスを与えられる場合もあったが、松尾先生やTAの学生にも頼ることも多かった。例えば「『生と死についての教育』に関する論文が見つからない」と聞かれ、どういうキーワードで検索すれば良いか悩んだが、松尾先生は即座に「『死生観』や『デス・エデュケーション』という単語を使ってみて」と答えていた。私の語彙不足ももちろんあるのだが、専門領域にある程度明るくなければ、学生への的確な指導は難しい場合があることを痛感すると同時に、そういった足りない知識を補完するためにそれぞれの専門分野の人間が連携することの重要さを感じた。
授業の最後には、資料検索が完了した学生のみワークシートを回収し、終わらなかった学生は次の授業までの課題となった。今回は例年よりも提出率が高かったようである。原因は複数あるだろうが、学生の資料検索の理解が年々深まっているとしたら何よりである。
3.授業後のワークシート確認
授業後、すぐに松尾先生と提出されたワークシートを確認した。先に述べたように提出率自体は良かったが、残念ながら参考文献の書き方は誤っているものが多かった。このうち大半は、CiNiiや新聞記事データベースの記述内容をそのまま書き出してしまい、松尾先生が事前に示していた「参考文献の記述のしかた」に適合していなかった。私の説明足らずが主な原因であり、修正すべき箇所は明確なので、次回は正答率を大幅に上げられるようにしたい。
松尾先生と私がチェックしたワークシートは、誤答があればそれを指摘した上で学生に返却された。この後、学生には再び参考文献を記述する必要のあるレポートが課されている。そのレポートでどこまで正答率が向上するか、期待している。
なお、ワークシートとは別に、学生から寄せられた授業の感想には「これからは図書館員にもっと相談しようと思った」という意見があった。松尾先生が「教員からみる附属図書館職員との協働授業の意義」 (『ニュースレター』静岡大学大学教育センターHP、2013年7月1日掲載)の中で、渡邊との協働授業の成果として「学生が図書館職員を学習の支援者として認識するという効果もあった」と言及しているように、今回の授業によって、図書館が「みえる存在」となることにつながれば幸いである。
4.まとめと課題
上記をまとめると、今回の協働授業では特に以下4点が収穫である。
・講義資料を松尾先生と学生に見てもらうことで、自分の知識を整理できた。
・自分の強みと弱点を再確認できた。
・学生の資料検索スキルに対して、自分の理解が高まった。
・熱意ある松尾先生と一緒に授業ができ、学生への接し方を再考することができた。
一方、次回への課題としては、学生の正答率の向上が挙げられる。しっかり参考文献を書けるよう、松尾先生と対策を練りたい。また、今回作成した資料も、インストラクショナルデザインなどの手法を活用してもう一度考え直したいと思っている。
おわりに -資料作成方法の所感にかえて-
この協働授業で用いる資料について、松尾先生は担当者である図書館職員ごとに一から作成することを要望している。一方図書館側は、他の図書館職員が作成した資料を共有してはどうかと言っており、意見が分かれている。最後に、これに対して意見を述べる。
当初私は、渡邊の配布資料を元に自分の話したい内容を付加する形で資料作成を進めようと考えていた。それは渡邊の資料が既に何度も松尾先生と打ち合わせた十分な完成度の資料であり、ここからスタートするのが一番効率的だと考えたからである。しかし資料作成を進めていくうちに「こういう説明を追加しよう、ここはカットしよう」という箇所が多くなり、それを重ねた結果、渡邊の資料とはかなり異なるものになった。私はこの体験から、資料作成に取りかかるときは他の図書館員の資料を模倣しても良いと考えている。ただしその場合、自分が講義する姿を想像しながら資料を追加修正していき、作成者らしい、自分だけが使えるような資料に仕立てることは必要不可欠だろう。それは、作成者の色が出ないような資料では、あまり意義のある授業は出来ないと思うからである。
私からの報告は以上である。今回の活動を活かして、また次のチャレンジにつなげたい。
(2015年1月6日修正)