【天野修一 ・ 大学教育センター】 学習用アプリを活用した英単語学習支援の試み

学習用アプリを活用した英単語学習支援の試み

天野修一(大学教育センター)

_本稿では、学習用アプリを用いた英単語の学習支援の試みについて報告する。ベネッセ教育総合研究所による第1回大学生の学習・生活実態調査報告書を見ると、大学生の片道通学時間の全体平均はおよそ56分であり、往復100分を超えるという。この時間のうちのいくらかは、彼らにとって貴重な学習時間になり得るのではないかと考える。通学上の安全や周囲への配慮の必要性を考えると、必然的に学習内容は制限されるが、学習用アプリを用いたスマートフォン上での英単語学習は通学中に実行可能なものの一つと言えるだろう。そこで以前から授業内で行っていた英単語テストの学習範囲を、学習用アプリで学ぶことができるよう準備し、受講生の英単語テスト対策に対する支援を試みることにした。

_私はこれまでにAnki、Memrise、Quizlet、zuknowのような学習用アプリを試用したことがあるが、これらはほんの一例に過ぎず、他にも様々な機能を持った学習用アプリが数多く利用可能である。その中で今回はMemriseを採用することにした。Memriseを選んだ理由としては、無料版があることや、PCでもスマートフォンでも利用できること、学習コースを自作できること、必要ならば画像や音声の取り込みが比較的容易にできること、間隔反復(spaced repetition)を実装したアプリであること、簡易の学習管理機能で教員が学生の学習状況をある程度までは把握できること、などが挙げられる。

_主にTOEIC受験準備のための英単語学習コースを授業に導入した。授業期間開始前からMemrise上に学習コースを作成し、受講生のみが利用できるよう準備して授業開始に備えた。初回の授業で十分な時間を取ってMemriseの機能や使い方、授業との関連を説明した。スマートフォンを持っていない学生に配慮して、PCでの使用を前提に説明し、スマートフォンアプリのダウンロードや使用は任意とした。第2週、第3週はログインがうまくいかなかった学生に対応するための猶予期間とし、この間の英単語テスト対策では、紙の英単語リストを使用してもらった。第4週からMemriseの運用を本格的に開始した。英単語テストは中間試験、期末試験の週を除き、毎週実施した。

_導入の成否を検討するために、半期分の授業終盤にMemriseの使用頻度や主な使用方法、使用場所について簡単なアンケート調査を行った。調査への協力が得られた学生数は27名である。以下にその結果を示す。

Memrise使用頻度
_毎回のように使用した学生が10名、よく使用した学生が9名と、大半の学生がMemriseを英単語テストの準備に積極的に使用していたことがわかる。その一方で紙のリストを好む声があったのも事実である。

毎回のように使用した 10名
よく使用した 9名
半々 4名
あまり使用しなかった 3名
ほぼ使用しなかった 1名

Memrise使用方法
_スマートフォンアプリのダウンロードは任意であったにもかかわらず、主にスマートフォンで学習していたという学生が18名で最も多い。この結果から英語学習用アプリを授業に導入するのならば、スマートフォンでの使用に対応したものの方が望ましいということがわかる。ただし、個人のPCを使用するものも少なからずいることから、スマートフォンとPCの両方での使用に対応したものを選ぶのが理想的である。

自分のPC 8名
学校のPC 0名
タブレット端末 1名
スマートフォン 18名
その他 0名

Memrise使用場所
_Memriseを使用して学習を行った場所については、自宅が19名で大半を占めている。そのうちの12名が主にスマートフォンで学習したと答えていたので、自宅の学習であってもスマートフォン対応の必要性は高いことがわかる。また5名ではあったが、こちらが意図した通り、通学中の乗り物でスマートフォンを使って学習したと答えた学生もいた。

自宅 19名
PC設置教室 0名
学校のPC設置教室以外 3名
通学中の乗り物 5名
その他 0名

_また自由記述欄には、Memriseの操作性や間隔反復機能を高く評価する肯定的なコメントが多く見られた。一方、改善を求めるコメントは学習コースの難易度や収録単語数など、教員の側で調整すべきものがほとんどだった。教員の立場から一点だけ難点を挙げるならば、学習コースの作成を手作業での入力で行わなければならないことが多く、準備に長い時間を要したことが指摘できる。

_本稿では、学習用アプリMemriseを活用して、学生の英単語学習を支援する試みについて報告した。事前に予想していたよりも、学生の反応は肯定的であったように感じている。Memriseの導入が上手くいかなかった場合に備えてBプランも用意していたが、その必要はなかった。学習コースの難易度や収録単語数の調整を行うことで、よりよい支援ができるようになる可能性もあるだろう。外国語学習の長い道のりの中で、学習用アプリが支援できるのはほんの一部のことに過ぎないかもしれないが、外国語習得に必要な学習量の膨大さを考えれば、その支援が学生にもたらす利点は決して小さなものではないだろう。