【関口勝夫・大学教育センター】新任教員挨拶
今年度より当センターに着任しました、特任助教の関口勝夫と申します。全学的なオンライン教育の企画・推進を担ったチームで働いています。私の研究分野は心理学で、ヒトの視覚や認知を他の動物と比較研究し、ヒトを深く理解することを目指しています。今回のご挨拶では、私の研究テーマである空間認知を例に、動物と比較する意義を紹介しつつ、データサイエンスの教育業務を担当していることもあるので、皆さんにデータとサイエンスを大切にしてほしいという提言をしたいと思います。
皆さんは、目的地まで移動する際に、建物や看板といった視覚的目印(ランドマーク)を距離や方向の空間手がかりとして使用することがあると思います。他の動物も同様で、例えば、帰巣本能があるハトは、いくつかの空間手がかりを巧みに使い分けているようです。遠距離からの帰巣は、太陽が見えていれば太陽コンパスを、見えていなければ生体磁石と磁場を使用し、近距離の帰巣になるとランドマークを使用するというように、ハトは空間認知能力を高度に進化させてきた種で、スマートフォンで例えるなら、10万円超えのハイエンド機と言えるかもしれません。我々はどうかと言えば、地図を見ながら目的地に向かおうとしても、人によってなかなかたどり着けないことがあります。ランドマークを用いた空間方略では男女差はないのですが、距離や方向の推定は男性に比べて女性の方が不正確であるという報告もあります。ヒトの空間認知は、スマートフォンで例えると、5万円程度のミドルクラスといったところでしょうか。つまり、ヒトを調べているだけでは、5万円というスマートフォンの価格が高いのか安いのかが分からないので、他の動物と比較することでヒトの空間認知を相対的に評価しようというわけです。
空間認知の性差は、メディアで「女性は地図が読めない」と紹介されますが、ここで注意したいのは、その説明がある意味で真実だとしても、性別という要因から地図を読む個人の能力を予測することにあまり意味がないということです。実際、私は男性で地図を読むのは得意ですが、距離や方向の推定が非常に苦手です。理論とは、あくまでもデータの大部分を説明しているに過ぎず、すべてのデータを説明しきれるとは限りません。つまり、理論を個々の事例に適用するには限界があるということです。
逆に、身近な経験をデータに基づかずにそのまま一般化してしまうこともあります。私が罪を犯したと仮定したとき、私の個人特性を1つ取り挙げ(例えば、大学教員という職業)、悪人と結びつけるといった具合です(大学教員は悪い人たちであると一般化する)。無関係な2つの事象を根拠もなく結びつけるのは、サイエンスからは程遠い非合理的な判断です。非常に危険な思考だと分かっていながら、私自身もこのような認知バイアスに無意識に陥ることがあります。油断していると、ついついやってしまう癖のようなものなので、皆さんも同じ経験があるのではないでしょうか(←言っているそばから、やっています。自分という事例が読者全員にそのまま当てはまるとは限らない)。
近年,データサイエンスに注目が集まっていますが、読者の皆さんには、自身が普段どのように思考しているかを冷静に振り返り、データやサイエンスに基づいた公正で偏見のない判断を心がけていただくことで、皆さんの学びやご活躍がより豊かになることを願っています。私も微力ながら、本学でそのためのお手伝いができたら幸いです。それでは、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。