キャリアデザインって何をすること?

キャリアデザインって何をすること?:

キャリアをデザインすることは、自分の文化をつくることでもあること

滑田明暢(大学教育センター)

 静岡大学全学教育科目の「キャリアデザイン」は、静岡大学では必修科目です。静岡大学に入学された方は、キャリアデザインって何?と一度は考えることになると思います。今回のニュースレターでは、授業の予習あるいは番外編として、キャリアデザインとは何かを考えてみたいと思います。

 キャリアデザインのことを考えるうえでは、まずはキャリアとは何か、を考える必要があります。キャリアは、職業の経歴を表す言葉として用いられることもありますが、ここでは「生涯にわたって人が経験する径路」(番田, 2019, p.139)と捉えたいと思います。乗り物が通ったあとにできるわだちのように、一つながりの人生の軌跡を思い浮かべると、イメージがしやすいと思います。

 では、キャリアデザインの「デザイン」はどういった内容を示すでしょうか。ある文化心理学の考え方を借りれば、「デザイン」は、「記号(サイン)の配置」(サトウ, 2019b; p.44)と考えることができます。記号(サイン)のわかりやすい例として、交通信号機の信号があります。現代日本では、青信号は「前に進む」ことを導く記号(サイン)であり、赤色に光っているときの信号は「止まる」ことを導く記号(サイン)であると考えられます。信号という記号(サイン)を適切に配置することで、私たちの交通行動が滞りなく行われるようにデザインされていると考えることができます。

 記号(サイン)は、それが指し示すものが人々に共有されていないと、意図していないことが起こることもあります。例えば、さきほどの交通信号機の場合、青信号の代わりに、人型のピクトグラムが白色に光る信号が用いられていた場合、日本で青信号に慣れている人にとっては、進んでよいのか止まったらよいのか、わからなくなることがあるでしょう。記号(サイン)は、それが指し示す内容が共有されていないと、伝わらないのです。そして、誰にでも同じように伝わるわけではないという事実をもとに考えると、記号(サイン)が指し示している内容を共有していることは同じ文化を身にまとっていることを示しており、その内容を共有していない場合には、同じ文化を身にまとっていないことを示していると考察することもできるでしょう。ある記号(サイン)が指し示す内容の共有が文化の本質であり(サトウ, 2019a)、記号(サイン)が指し示す内容が互いに異なるものとして読み取られる場合には、混乱や葛藤が引き起こされることもあることが文化心理学の書籍では示されています(サトウ, 2019b)。文化心理学(サトウ, 2019a; サトウ, 2019b)の考え方を参照すれば、「記号(サイン)の配置」(サトウ, 2019b; p.44)はデザインでもあり、文化そのものでもあると捉えられます。

 文化を「記号(サイン)の配置」(サトウ, 2019; p.44)として捉える文化心理学の考え方をもとに考えると、キャリアデザインは、まさに人生における軌跡の文化をつくり上げること、と同義であると考えることができます。そして、文化は記号(サイン)が配置されることによって形成されると考えると、キャリアデザインで行うことは、人生において記号(サイン)を配置していくことであると考えることができます。では、人生において記号(サイン)を配置する、とはどういったことなのでしょうか。

 人生で指針となるような目標は、一つの記号(サイン)であり、様々な行動を促すことがあると思います。例えば、家事をうまくこなせるようになりたい、という目標をもつことによって、料理や掃除の方法を学ぶ行動が促されることは、想像しやすいでしょう。人から聞いた言葉、自分の中の心の声、も記号(サイン)になりえます。また、日々の暮らしのなかで、例えば、朝起きて語学のラジオを聞くことができるように布団の近くにラジオを置いておくことや、情報収集のために新聞をとるといったことも、ラジオを聞く、新聞を読む、といったそれぞれの行動を促す記号(サイン)の配置であると考えられます。ゲーム機を手の届きづらいところに置いておくことや、見聞を広げるために外出の予定を入れておく、運動する時間を確保しておくということも、記号(サイン)の配置あるいは記号(サイン)の配置による結果としての行動、と考えることができるでしょう。人の行動を促進する記号(サイン)は促進的記号、人の行動を抑制する記号(サイン)は抑制的記号、と文化心理学では呼ばれています(サトウ, 2019a)。

ある行動を促進したり、抑制したりする機能をもった記号(サイン)をどのように配置するかによって、私たちの日々の行動は変わってきます。そして、長い期間で考えれば、人生の方向性が変わってくることもあると思います。キャリアデザインを、自分の文化をつくり上げることと捉えて、記号(サイン)の配置を意識してみるのはいかがでしょうか。

引用文献

番田清美(2019).文化から見るキャリア/キャリアから見る文化 木戸彩恵・サトウタツヤ(編)「文化心理学ー理論・各論・方法論」ちとせプレス pp.139-154.

サトウタツヤ(2019a).記号という考え方 記号と文化心理学 その1 木戸彩恵・サトウタツヤ(編)「文化心理学ー理論・各論・方法論」ちとせプレス pp.27-39.

サトウタツヤ(2019b).時間と記号 記号と文化心理学 その2 木戸彩恵・サトウタツヤ(編)「文化心理学ー理論・各論・方法論」ちとせプレス pp.41-51.

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