教員からみる附属図書館職員との協働授業の意義
(大学教育センター・講師 松尾由希子)
平成24年度後期から、附属図書館レファレンス係の渡邊貴子さんと協働授業を行なっている。協働授業の内容(「教育の原理」の場合)は、1.教員がレポート課題を出しレポートの書き方について説明し、学生はレポートテーマを決める(協働授業の前の時間)、2.図書館職員が論文・新聞検索の方法を説明し、学生は文献検索用のワークシートにレポートテーマに即して探した文献情報を書き込み、教員に提出する(協働授業当日)、3.ワークシートは教員と図書館職員で確認して、学生に返却する(協働授業の後の時間)というものである。これまでに教職科目である「教育の原理」「特別活動論」において、3回にわたって協働授業を行なった。協働授業の目的については、渡邊さんが「教員・職員のそれぞれの専門性をいかすことによって、学生が効果的に学習内容を習得する」ものと述べ、協働授業によって学生の文献検索の力は伸びたことがわかっている。その詳しい内容については、渡邊さんが大学教育センターニュースレター(「学生の文献検索能力の現状報告―教職講義の受講生を対象に―」2012年12月4日掲載)と『静岡大学教育研究9号』(「教員と職員の専門性をいかした協働の試み―教職科目における協働授業の実践―」2013年、55~62頁)に執筆されているので参照されたい。渡邊さんは図書館職員の視点で、協働授業の目的や効果について分析されており、現在は昨年度の受講生について継続調査等を行なっているところである。私は、教員側からみた学生の実態と協働授業の意義について述べたい。
1学生の文献検索技術の実態
私は、全学の教職課程を担当している。今日、大学の教員養成課程では「学び続ける教師」の養成が期待されており、教員となった後も一生学び続けられるように、スキルや学習意欲を高める必要がある。そのため、授業以外でも学習してもらおうとレポート等の課題を適宜出すようにしている。着任して1年目から感じていたことであるが、文献検索のできない学生が多い。学術図書とそうでない図書の区別がついておらず、論文になると検索すらできない学生が9割くらいいる。適切な文献を探せないのにレポート課題をだしても効果がないため、授業の1時間を文献検索指導にあてたのが3年ほど前である。ほとんどの学生が論文を検索できないため、文献検索の経験がないのだと思っていたのだが、学生や渡邊さんと話しているうちに「新入生セミナーの中で全員が図書の検索をしており、約半数は論文検索も経験している」ことがわかった。しかし、教職科目の受講生の約9割は「論文検索できない」とこたえる。つまり、多くの学生は文献検索を経験しているが、身についていないということになる。私の授業では、2年、3年次に論文を用いてレポートを書くことになる。2年次において9割が論文検索できないが、3年になると昨年の経験をいかしてほとんどが検索できている。1年次のセミナーで身につかなかった文献検索技術が、私の授業で身につく理由については、渡邊さんが「評価に関わる課題遂行という動機づけがあるかないか」の違いであろうと分析している。学生の実態について渡邊さんと話すうちに、互いの専門性をいかして協働授業を行なうことになった。
2 図書館職員との協働授業の意義
私が考える教員と図書館職員との協働授業の意義は、2点ある。1つは、文献検索に関する図書館職員の専門性の高さをいかす、2つは、学習支援者としての図書館職員を学生にとって「みえる存在」にすることである。
(1)文献検索に関する図書館職員の専門性の高さをいかす
協働授業以前より、図書館職員から新しい検索エンジンや文献検索の方法などを紹介してもらうことがたびたびあった。そのため、文献検索については、私が学生に教えるよりも、専門性の高い図書館職員に教えてもらうほうが適切だと考えた。さらに、渡邊さんから、学生が抱えるいくつかの問題点について指摘があった。その1つが、キーワードである。検索に必要とするキーワードをみつけられない学生が多いという。キーワードを含めたさまざまな問題点を解決できるように、渡邊さんは配布資料を作成した。以下は、協働授業の後に学生が書いたコメントペーパーの内容である(2013年5月13日)。
・学内のデータベースは1年の時あまり使わなかったので、これからは利用したい。
・他の課題でも論文検索を役立てたい。
・今まで図書館で必死に探していたが、今回の授業でよい方法を知ることができて良かった。
・静大の図書館やホームページも様々な使い方ができるんだなと思った。これから積極的に使いたいと思った。
・実際に使ったことはなかったが、今回の授業でその利便性を再確認することができた。
・渡邊さんの授業のおかげでみることができない(PDF化されていない論文の意)の論文の謎が解けました。
協働授業によって、文献検索をできるようになり、他の授業の課題や勉強にもいかしたいという声が多くあがった。
(2)学びを支えてきた図書館職員を「みえる存在」にする
学生の学びをささえるのは、教職員だといわれる。私もそう考えている。しかし、実際に学んでいる学生はどう思っているだろうか。講義をする教員については認識しているはずだが、職員についてはあまり認識していないようにみえる。熱心な学生は図書館に出向き、文献等について質問しているようだが、多くの学生はそこまでしないため、図書館職員の専門性について認識していない学生は多いと思われる。今回、協働授業を行なって新たにわかったことがある。それは、図書館職員が学習支援者として「みえる存在」になったことである。渡邊さんはとても丁寧な資料を作ってくれたため、それを使って話せば私もある程度は説明できる(実際、浜松キャンパスではそうしている)。しかし、そのやり方では相も変わらず学生は、質問の対象を教員に限ってしまう。その状況を改善するためには、教員と図書館職員が授業の中で、共に学生の指導にあたることに意味があるだろう。協働授業当日、学生が文献検索した結果をワークシートに書き込む際、教員と図書館職員は共に動き回り、学生の質問に答えている。協働授業以前、文献検索方法について説明した後に「わからないことがあったら図書館のレファレンス係にきくように」と付け加えるようにしていたが、レファレンス係から学生がきたという話はきかず、質問は私が受けていた。しかし、協働授業をするようになってから、ワークシートをもってレファレンス係に質問に行く学生が増えたときく。教員と職員が同時に学生の学習に関わるということは、文献検索技術の教授にとどまらず、学生が図書館職員を学習の支援者として認識するという効果もあった。
3 今後の課題
今後の課題は、2点ある。1つは、協働授業の継続である。協働授業は、現時点では試行の段階である。職員は数年単位で異動するため、レファレンス係の担当者次第で継続できるか否かが決まる。今後、附属図書館との相談が必要であろう。これまでの3回の協働授業を通じて、学生の文献検索技術は向上し、態度にも変化がみられた。今後も協働授業を継続して、共に学習支援者として学生指導にあたっていけたらと考えている。2つは、環境の整備である。課題というより希望になるが、タブレットパソコンを用いて協働授業を行ないたい。昨年度は、大学から借りたiPadを使って全員が講義室で文献検索を行なった。しかし、今年度は使用できるiPadの数が減ってしまい、ほとんどの学生が自分自身のパソコンをもってきた。一昨年からiPadを授業で使っており、利点をわかっているからこそ使っていきたい。タブレットパソコンはコンパクトであるため、端末を机におきながら同時にワークシートに書きこむという作業もできて、グループワークの際も情報共有を容易にする。多人数の授業で十分に使える台数を準備することは難しいと思うが、多人数でも効果的に授業を行なえるよう環境整備は必要である。以下が、iPadを使って文献検索した後の学生の感想である(2013年4月11日「特別活動論」の授業時に渡邊さんが行なった質問紙。昨年度の「教育の原理」についてきいた)。
・iPadを使えてよかった。
・iPadを1人1台配られていたので、説明されるだけよりわかりやすかった。
・とてもわかりやすい説明だったことと、教わってすぐに自分で調べてみて方法
を覚えられたので、すごくためになりました。
・わかりやすかったが、実際にやって理解することも多かった。