【髙瀬 祐子・大学教育センター】グローバル人材とはなにか?―シンポジウム「君のグローバル人材の理解は間違ってる!?」に参加して―

グローバル人材とはなにか?―シンポジウム「君のグローバル人材の理解は間違ってる!?」に参加して―

大学教育センター 特任助教 髙瀬 祐子

 

 グローバルという言葉が盛んに使われるようになったのはいつ頃からだろうか? 現在、教育の分野ではグローバルという言葉がさかんに飛び交っている。グローバル人材の育成、グローバル化を推進、グローバル教育の実施など、もはやグローバルという言葉を抜きに教育は語れないという様相を呈している。では、グローバルとは一体何だろうか?

 グローバルとは英語で球体を意味するglobeの形容詞である。globeはtheをつけて地球を示すことから、globalは「地球全体の、世界的な」という意味を持つ。同じように使われてきた言葉にインターナショナルがある。interとは「~の間、相互に」を意味し、nationalは触れるまでもないが「国家の」を意味する形容詞である。つまり、インターナショナルが国と国との間をあらわす言葉であるのに対し、グローバルは1つ1つの国ではなく地球全体を示す言葉である。グローバルという言葉を頻繁に耳にするようになってから、インターナショナルという言葉はあまり使われなくなったように思う。国と国の関係を考えるという段階から、地球規模で考えようという段階へ変化しようとしているのだろうか。

 このような私の未熟なグローバルへの理解の助けとなるかと思い、2月4日(火)に法政大学にて行われた国際キャリア支援シンポジウム「君のグローバル人材の理解は間違ってる!?」へ参加した。基調講演や対談、パネルディスカッションを通して、グローバル人材とは何か、を問い直す内容であった。
 まず、三井住友銀行会長である北山禎介氏から「企業が考えるグローバル人材」について講演された。内容を要約すると、グローバル人材=英語の話せる人をイメージする学生が多いが、その限りではない。北山氏自身がニューヨークやタイで駐在した経験から、英語が話せることはもちろん重要ではあるが、それよりも多様な民族、宗教、価値観、文化を理解し、適応できることが最も求められる。学生時代には、英語だけではなく、多様な価値観に対応するための深みのある知識や教養を身につけることが重要である。また最近の学生にはリスクを避けようとする傾向があるが、企業はリスクを背負うことを恐れず、新しいことに挑戦しやり遂げる気概に富んだ学生を求めている。
 その後、北山氏と法政大学専門職大学院教授である藤村博之氏の対談が行われた。対談の中で、三井住友銀行が行っているという研修の話が印象に残った。その内容は、2泊3日ひたすら古典を読んで、議論するというものである。北山氏は普段読む機会の少ない古典作品を読むことによって、世界の文化や歴史、経済への知識と教養、いわゆるリベラルアーツが身に付くと強調された。世界だけではなく、日本の歴史、文化や政治に関する知識を身につけることも大切であるという点で2人の登壇者の意見は一致していた。
 パネルディスカッションでは、様々な職種のパネリストが集まり、各々の考える「異文化コミュニケーションで必要なスキル」について意見交換が行われた。パネリストたちは海外で仕事をした経験や海外の企業を相手に仕事をした経験を持ち、より具体的な体験談や学生時代に実践していたこと等を聞くことができた。
 シンポジウム全体を通して見えた「グローバル人材」とは、語学の能力を身につけるだけではなく、幅広い知識と教養を身につけ、物怖じせずチャレンジする精神を持った人である。これは、突如出現した理想の人物像ではなく、常に目標とされてきた理想像の一例ではないだろうか。「グローバル」という言葉がひとり歩きし、実体を持たないシニフィアンだけに注目が集まっている印象を受ける。グローバル化を推進し、グローバル人材の育成を目指す上で、「グローバル教育」とは何か? 今回のシンポジウムは今後の英語教育の在り方を考える上で欠かせないテーマである「グローバル」について、原点に立ち返り再考する良い機会となった。