【佐藤 龍子・大学教育センター教授】世界大学ランキングと静岡大学

世界大学ランキングと静岡大学

大学教育センター 教授 佐藤 龍子

 先日2014年8月1日、大学評価・学位授与機構の主催の質保証フォーラム「大学ランキングを問う~大学の多元的道しるべ~ランキング指標を問う~」に参加した。基調講演はオランダのトゥエンテ大学高等教育政策研究所・上級研究員のDon F Westerheijden氏である。氏の講演「多目的マッピングとランキングー高等教育機関の透明性を高めるツール」を聞き、最近の欧州のランキングに対する考え方と新しいツールについて知ることができた。
 世界ランキングといえば、ARWU(上海交通大学)、THEランキング(イギリスの高等教育専門誌)、QS世界ランキング(イギリスの大学評価機関)などが有名である。ARWUは「ノーベル賞、またはフィールズ賞を受賞した卒業生数」が数値に入っているなど、非常に研究に偏っている。Don F Westerheijden氏は、既存のランキングに対する批判として、①「大学全体」に重点を置いている(学内の相違を無視)→プログラムごとの多様性を無視(ex物理、情報…) ②「伝統的」研究の生産性やインパクトに注力している ③「総合研究大学」に重点を置いている ④成果を複合的な指標の集まりとしてみている→exなぜ研究(比率)が40%なのか、裏付けとなる科学的理論がない ⑤「league table」(成績一覧表)を使っている→順位付けがスキだ。どこまで違うのか疑問 ⑥文化的・言語的な面で偏りがある→トムソン・ロイター、エグゼビアなど英語での出版のみ。バイアスがかかっている、英語が第一言語でない人、国には不利 ⑦人文・社会科学に不利な偏りがある等をあげていた。
 それら既存のランキングに対する批判もあり、欧州では新たにU-MapとU-Multirankを開発した。U-Mapは大学ごとの活動(インプットとプロセス)を表し、U-Multirankは大学ごとの成果(アウトプット、アウトカム)を表すものである。U-Mapは、1.教育・研究プロファイル、2.学生のプロファイル、3.研究、4.知識交流/移転、5.国際性、6.地域貢献などが項目としてある。U-multirankはウェブツールで、 大学の成果比較のための新たなツールである。これは垂直的な要素もあるが、多様性もあり、多元的ランキングで成果を5つの次元から、30以上の指標(成果指標)に基づきランク付けする。大学全体としての成果ランキングと特定の専攻分野や学科におけるランク付けを併せて行っている。現在、850以上の大学が公開データと共に掲載、70か国以上の大学がU-multirank を導入、物理学、電気工学、機械工学、経営学の4分野の専攻分野別ランキングに1000学部以上、5000以上の学習プログラムが掲載。学生6万人以上が満足度調査に回答しているとのこと。2015年には心理学、コンピュータ科学、医学など新しい学科が追加予定である。
 これらのツールの開発背景には、総合的に世界○○位というのは意味がないという既存ランキングに対する批判や、世界中の高等教育や研究機関すべてについて、1つのランキングで対応するのでは、どのステークホルダーのグループにとっても納得のゆくものではないということがあげられる。多様性を重視する欧州らしい考え方である。また、学生、親、研究者、政策立案者、大学運営者などが意思決定のための参考情報を得られるツールが重要であるとの認識を持っているからでもある。いわば柔軟な学びのツールである。
 日本のマスコミはARWU,THEランキング,QS世界ランキングなど分かりやすいランキングがスキだが、静岡大学はぜひU-MapとU-Multirankに参加してはどうだろうか。すでに日本でも北海道大学と名古屋工業大学が参加している。世界○○位に踊らされることなく、多様で多元的な大学の価値を認め、なによりも前述のように学生、親、研究者、政策立案者、大学運営者などが意思決定のための参考情報を得られるツールとして評価指標はあるべきだ。また、大学ランキングもさることながら、基本的な情報公開(例:大学ポートレート)こそが早急に求められている。静大では中退率(中退者数)を基本情報に入れていないが、いくつかの大学ではすでに中退者数を掲載している。地道だが、誠意ある情報こそステークホルダーに役立つと思う。