平成25年度国立大学教養教育実施組織会議への参加報告

佐藤翠(学務部教務課)
松尾由希子・須藤智・坂井敬子・小町将之
(大学教育センター)

 全国の国立大学において教養教育に関わる機関の担当者が集まって、情報共有と取組みの改善に関わる意見交換を行うため、国立大学教養教育実施組織会議というものが年に一度開催されています。今年度は以下の要領で実施され、大学教育センター教員と学務部スタッフ数名で参加してきました。

開催日:2013年5月30日・31日
会場:メルパルク熊本(熊本県熊本市)
当番校:熊本大学
議事:
 「学士課程教育と初年次教育プログラム」(全体会議)
 「成績評価基準とその内容について」(第一分科会)
 「英語教育における習熟度別クラス編成とGPAについて」(第二分科会)
 「教養教育とアクティブラーニングの実践について」(第三分科会)
 「教養教育と非常勤講師の在り方について」(第四分科会)

このうち、学務部スタッフおよび大学教育センター教員が参加した第一分科会、第二分科会および第三分科会について、以下の通り報告します。

1.第一分科会(「成績評価基準とその内容について」)報告(報告:佐藤翠)

 到達目標の表現を取り入れた成績評価基準へ改定したことについて議題提案校の茨城大学から説明を受けたうえで、秋田大学・山梨大学・福井大学・大阪大学の取り組みの状況について報告がされました。
①茨城大学では平成25年度度からGPAを導入したことにあわせて、成績評価基準の再整備が行われました。教育の質保証にともない成績評価基準に主体的な学修についての表現をすることが審議されましたが、到達目標の表現が採用されています。
②秋田大学では成績評価の適正化の申合せを提言しており、不合格の割合が20%を超えないこと、同一科目では合否判定基準を共有することなどの努力目標を定め、学生への公表も始まっています。これらの取り組みによって学生からの評価に関するクレームの件数は激減しています。
③山梨大学では絶対評価をもって評価がされていますが、適正な評価成績評価における教学担当理事からの指示によって平均と分散の目安(75±10、ある程度のばらつきがあるように)が示され、著しく外れた評価がされた場合には全学共通科目委員会から教員に注意喚起が行われています。また、点数での標記を基準としていますが、評語による表示する場合には11段階で表現するという取り組みもされています。
④福井大学はキャンパス毎に特色のある教養教育課程を有しており、それぞれの学部ごとカリキュラム全体を通じた総合的な評価基準を定めています。PDCAサイクルではなくCAPDという考えを基にパフォーマンスやコンピテンシーを考慮した評価をすることでスタンダード(教育目標に関する社会的共通合意)を保証する評価に取り組んでいます。また積極的に海外ベンチマーキングを行うなどFD活動も活発に行われています。
⑤大阪大学では進学振り分け制度をとっていることから一部の理系学部では相対評価を取り入れています。また、同一科目間では差別感解消のため共通試験問題を使用し、採点も共同で行うこと、積極的に追試験や再試験を実施することが要望されていますが、教育の質保証と相反するのではないかという指摘もされています。

第一分科の意見交換での主な議題となったのは・評価の体系について・成績評価基準(ルーブリック)への取り組みについての2点でした。評価の体系については、絶対評価が原則ではあるが、各大学の事情によっては進級制度などに関連して相対評価を取り入れることも考えられるが成績評価の議論の前提としては教員の教育力が問われる、評価観点や授業形態が多様化している中で評価基準についても工夫・議論をしていく必要があるという意見が出されました。成績評価基準(ルーブリック)については、すでに導入している大学から科目によっては有効に活用できていることが紹介され、ジェネリックスキルの向上にもつながるという報告がありました。しかし、一方でルーブリックを取り入れるためには事前のFDを重点的に行う必要がある、教員の負担が重くキャパシティを超えるケースがある、十分な検証がされづらいという問題点も明らかになりました。まだ共通の認識が持てていない現状もうかがえました。
分科会の議論の中で各大学が成績評価の取り組みの状況にさまざまな工夫と課題意識をもって取り組んでいることがよくわかりました。静岡大学でもシラバスなどで成績評価の基準をしめし、同一科目においては外部試験の利用や統一試験を実施するなどの取り組みを行っています。
中教審答申で教育の質保証が取り上げられ、PBLやアクティブ・ラーニングなど従来の授業とは異なる形の学修が取り入れられていく状況においては、学生の主体的な学びをいかに評価していくかが大学における成績評価基準の今後の課題であると感じました。

2.第二分科会(「英語教育における習熟度別クラス編成とGPAについて」)報告
(報告:小町将之)

 当分科会の問題意識は、以下の5点に集約されます。1)英語教育において習熟度別クラス編成をしているか、2)どのような基準を用いてレベルを分ければよいか、3)入学時点でプレースメントテストを実施する場合、どのようなテストを用いるとよいか、4)プレースメントテストを実施しない場合、入試の成績を用いる大学もあるようだが、入試の成績を用いることに手続き上問題があるか、5)レベル別のクラスを実施した場合に、成績評価において不公平が生じないような配慮は可能か。
 分科会の行われた3時間では、これらの問題意識について、「実際の運営」の視点から情報共有が行われました。TOEICやTOEFL、G-TELPなど、その名をよく耳にする外部試験をプレースメントテストに利用している大学も多くありましたが、新学期早々にこれら外部試験を実施することが困難な大学では、入試の成績を用いているところもあるようです。
 なお本学では今年度新入学生より新カリキュラムが適用されており、上の各問いに対するひとまずの回答は、以下のように述べられます。新入学生は、入試時のセンター試験の結果に基づいて4レベルに分けられ、1年前学期の2つの必修科目(「英語演習I」および「英語コミュニケーションI」)を履修することになります。成績基準としては特に「英語演習I」において公平性に配慮した基準が用意されています。この基準は履修案内に示されており、期末試験として実施するTOEICのスコアと各担当教員の平常点にもとづく総合的な評価を行うこととされています。また、この基準はレベルに関わらず統一的であるため、「最上位レベルの授業に居さえすれば、楽をしていてもそれなりに良い成績をとる(またはその逆)」ことや「最下位クラスに入ってしまうと、授業でどれほどがんばっても、取ることのできる一番良い成績の上限が制限されている(またはその逆)」という不満が生じる余地は非常に限定的です。また、1年後学期以降は多様な選択科目が用意されていますが、TOEICスコアを履修条件にして受講者のレベルを統制しています。500点以上をとれば1科目2単位の高いレベルの授業を受講することができ、400点以上をとれば1科目1単位の中級程度の授業を受講することができます。400点未満であった場合には、「基礎英語演習」という週2日1科目1単位の授業を受けて、基礎から徹底的に復習し、基準に到達するまで何度でも再履修することが求められます。
 今回の分科会では、「このようなレベル分けが実際に学習効果に寄与するのか」という視点は含まれていませんでしたが、実際にはこれが最も重要なことです。したがって、レベル分けの厳格さや正当性それ自体の追求ばかりにとらわれず、教育システム全体の中での適切で絶妙な位置づけに気を配ることが、システムがうまく行くかどうかのカギになるものと思われます。

3.第三分科会(「教養教育とアクティブラーニングの実践について」)報告

(1)4大学によるアクティブ・ラーニングの事例(報告:松尾由希子)
 分科会では、千葉大学、三重大学、愛媛大学、九州大学の教養教育(共通教育)におけるアクティブ・ラーニングの取り組みについて説明がありました。かんたんに各大学の取り組みについて説明します。
①千葉大学
 千葉大学では、アクティブ・ラーニングを推進するにあたり、体験型の授業を増やしたり、部局間で連携をとり人材を活用したりしています。1011の教養科目のうち、アクティブ・ラーニング関連科目は98科目です。手法は、体験学習、問題解決学習、実習、ディスカッション、ケーススタディなどです。内容は、「キャリアを育てる」「国際性を高める」「千葉大の環境」「ジェンダーを考える」「コミュニケーションリテラシー」「地域をつくる」です。期待される効果として、1学士力、逞しい学力の育成、2キャリア教育、3国際交流、4地域連携、5就職支援があげられ、今後の課題として、アクティブ・ラーニングの指導のできる教員の確保、部局間・学外諸団体とのいっそうの協力関係、学生・教員の負担の軽減があがりました。
②三重大学
 三重大学では、アクティブ・ラーニングを取り入れた授業として、2009年度より「『4つの力』(感じる力、考える力、コミュニケーション力、これらの3つを総合した生きる力)スタートアップセミナー」(以下、4SUSと記す)と2006年度より「PBLセミナー」を行なっています。
4SUSは、三重大学が養成をめざす「4つの力」の意義を理解し、主体的学習者として自ら目標を設定し、達成する姿勢を習得するためのセミナーです。平成24年度において、32クラス(1クラス約40名)1248人が受講しています。高等教育創造開発センター所属の教員5名と有志教員3名が担当しています。毎週、担当者による授業検討会を開いています。共通テキストに基づいて授業を展開し、eポートフォリオを活用しています。
PBLセミナーは、コミュニケーション力を含めて、効果的に学生たちの力の幅を広げるものです。1週に2コマ(4単位)行ない、教員が立ち会う「PBLタイム」と「PBLタイム」に向けたグループワーク・自己学習(TAの活用)で構成されています。セミナーの目的は、学生が能動的に知識を獲得し問題解決能力をつけたり、グループにおける議論を通じた合意形成能力や公開の発表を通じたプレゼンテーション能力を養ったり、学習の動機づけを高めたりすることにあります。
③愛媛大学
 愛媛大学では、今年度よりアクティブ・ラーニングを取り入れた授業として、「主題探求型科目」群を置きました。手法は、クリッカーや調査、フィールドワーク、ロールプレイ、実習、ペア学習になります。1クラス最大50名程度で行ない、前期では80クラス約4000名、後期では40クラス約2000名が受講しています。全ての先生に実践してもらうという方針で行なっています。
④九州大学
 九州大学では、2006年度入学生からコアセミナー(「読む」「書く」「調べる」「発表する」「討論する」など学習の基礎的な能力)、少人数セミナーといった授業を設けていましたが、カリキュラム改訂の結果、2014年度からアクティブ・ラーニングを取り入れた授業として「初年次の基幹教育」を実施します。「初年次の基幹教育」は、大学での学びの基礎となる態度の滋養と知識を習得するものです。対話を中心としたセミナーやグループでの協同学習と取り入れ、文理を超えた多様な学生の交流の中で「生涯にわたって自律的に学び続けるアクティブ・ラーナーとしての『学び方を学ぶ』、『考え方を学ぶ』ための姿勢と態度を育成する」ことをめざしています。150人のクラスを3人の教員(理・文)が担当します。1つのテーマを3つの側面からアプローチする方法をとるため、50人3クラスに分かれて、TAを活用しながら講義と演習を繰り返し行ないます。
 私は、学生に主体的に学ぶ意欲やスキルを身につけてほしいという思いがあり、授業の一部にアクティブ・ラーニングを取り入れています。しかし、多人数の授業でアクティブ・ラーニングを行なうことに限界を感じることもあり、他の大学の実践や理念を学びたいと今回参加しました。しかしながら、他大学も試行錯誤しながらアクティブ・ラーニングを取り入れている段階であり、「アクティブ・ラーニングを導入することの意味」から問うていることがわかりました。教養教育におけるアクティブ・ラーニングの意味について、「理論と実践の往還を体験させ、現実場面で使えるようにする。それを早い段階(教養教育を学ぶ段階)から体験させることが重要である。」「『無知の知』を実感できる。一方的に教員から与えられる知には限界がある。」などの肯定的な意見や「アクティブ・ラーニングの限界についても考えるべきだ」という慎重な意見などもあがり、アクティブ・ラーニングの意味についてもう一度とらえなおす機会になりました。また、アクティブ・ラーニングの定義については人によって異なり、必ずしも学生主体の活動(実習等)をさすわけでもないようです。アクティブ・ラーニングとは何か。それを考えるために、学生主体の実践に学ぶ前に、定義から整理したいと思いました。

(2)アクティブ・ラーニングとその評価(報告:坂井敬子)
分科会の議論では,アクティブ・ラーニングの「評価」について多くの時間が割かれましたので,2つの観点に分けてここにお知らせいたします。
①アクティブ・ラーニングという授業手法を大学としてどう評価するか
教養教育においてのアクティブ・ラーニングが比較的新しい取り組みであるため,大学としてこれをどのように評価するのかに関しても,いくつかの話題提供や意見が挙げられました。事例報告のあった三重大学では,学生による授業評価において,PBLセミナーや4SUSは,「学びを深めるために,調べたり尋ねたりした」など主体的に取り組んだことがうかがえる項目で,講義に比べて高い得点が出たようです。他大学では,アクティブ・ラーニング型授業の履修前後で何らかの測度を取り入れることの必要性,数年間の当該科目の評価を追跡する必要性が指摘されました。
②アクティブ・ラーニングを取り入れた授業科目の成績をどう評価するか
まずは,アクティブ・ラーニングそのものを評価する基準を見直す必要があるという指摘がなされました。問題としては,学習者の積極的な関与が目に見える分,評価が甘くなりがちであるということです。到達の目標を定めるのが困難であれば学習のプロセスを評価できる仕組みもあること,合格あるいは不合格だけの簡便な評価をしてGPAには組み込まないのも一つのやり方であること,成績分布を定めてしまう,などの意見も挙げられました。評価の材料としてポートフォリオも挙げられていましたが,分科会後に本学メンバーで話した際には「ルーブリックも効果的な評価方法になりえるのではないか」という意見も挙がりました。
また,これはアクティブ・ラーニングに限りませんが,授業の計画段階で到達目標を設定しシラバスで明記して学習者に通知の上で成績評価を行うべきであるという基本的な指摘もなされました。方法(ここではアクティブ・ラーニング)と目的(当該科目の学習目標)が異なるのであれば,それらを分けて知らしめるべきであるというもっともな考えです。アクティブ・ラーニングの効果を高めるためにも,大変重要な指摘であると考えます。

(3)アクティブラーニングを支える環境の必要性(報告:須藤智)
 千葉大学の報告において、学生の授業内外でのアクティブラーニングをサポートする環境として「アカデミックリンクセンター」が紹介された。アカデミックリンクセンターは、図書館、ITセンター、教養教育担当部署(センター)が連携して運営する建物であり、学生は授業内外で図書館やITセンターのリソースを有機的に活用しながら主体的に学ぶことができる。また、建物のスペースや教室は、大講義が中心で比較的大きなサイズの教室が多い教養教育の教室構成とは異なり、学生同士でグループワークをしやすいオープンスペースや、スタジオ、セミナー室で構成されていた。
 必ずしもアクティブラーニング=少人数授業という図式ではないが、PBL型授業を例として、アクティブラーニングを取り込んだ授業は少人数授業である場合が多く、小規模の教室がある程度必要となる。また、PBL型の授業を実施した場合、授業外時間でのグループワークを学生が自主的に行うことも考えられ、図書館の資料の活用、ITツールの活用をスムーズにできるワークスペースも確保していくことが求められる。千葉大学のアカデミックリンクセンターはまさにこのような活動をサポートする施設であるように感じられた。
 本学においても、図書館やITセンターは同じキャンパスにあり、学生のアクティブラーニングを取り込んだ授業には支障がないとも考えられるが、共通教育棟内の教室の授業や図書館などで自主学習する学生の視点から考えると、地理的な問題やリソース間の縦割りのルールの問題から、それらのリソースをフルに活用することは難しいこともあると考えられる。今後本学においても、学生のアクティブラーニングをサポートするためには、「学生視点」から様々なリソースを有機的に連携させていくことが必要であろう。
 本学においても、この1,2年で、図書館と大学教育センターが連携しながら図書館のラーニングコモンズである「ハーベストルーム」での学習サポートの取組が検討されている。この取組においても、できる限り学生視点から学生のアクティブラーニングをサポートするような複数リソースの有機的な連携を実現し、全学的なアクティブラーニングを支援する一つの取組としたい。